2009-01-01から1年間の記事一覧

家族の敗戦 『秋刀魚の味』

『秋刀魚の味』の設定では、戦時中の笠智衆は駆逐艦の艦長でした。部下には若き日の加東大介がいます。戦後二十年近くを経て、この二人は東野英治郎のラーメン屋で再会しました。加東は岸田今日子のトリスバーに笠を連れ込むと、軍艦マーチを聴きながら嘆じ…

善人たちの阿呆船 『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』から『世界大戦争』へ

『太平洋の嵐』('60)で二航戦司令官の山口多聞を演じたのは三船敏郎でした。その隣で飛龍の艦長をやったのは田崎潤。彼らの背後には先任参謀の池部良が控え、さらに後方の発着艦指揮所では飛行長の平田昭彦がランプを振り回しています。飛行隊長の鶴田浩二は…

若尾文子と童貞たち 『雁の寺』 [1962]

もし若尾を自由にセクハラしてよい世界があったのなら……という意味で、これは思考実験なのである。鴈治郎は表情を変えず、若尾をなで回す。温厚そうな三島雅夫は、鴈治郎というたがが外れると、温厚そうな見た目のまま若尾にむしゃぶりつき、われわれの価値…

化物語

こんなイヤらしいオサレアニメごときに......くやしいものだ

若尾文子と童貞たち 『しとやかな獣』 [1962]

斜に構えた作劇の割に、キャラクターは人におもねろうとする。これが苦手だ。高松英郎が内情を吐露するのは構わない。彼はテンパっているからだ。しかし、若尾や伊藤雄之助が苦労話で同情を誘うのは、覚悟が足りない。彼らの斜に構えた言動がスポイルされ、…

若尾文子と童貞たち 『卍』 [1964]

これは面白い。明らかに人を笑わせようとしていて、成功している。特に岸田今日子がすばらしい...「あんた綺麗な体ををををを」「あんまりやわ、あんまやりやわ」「にくたらし、うちあんた殺してやりたい」云々。 +++ 語り手の保造にとって、若尾の内面は…

夏エヴァと私 ―― 12年前 夏 新宿東映パラスで

若尾文子と童貞たち 『好色一代男』 [1961]

童貞である語り手の矮小な空想力には、本作が扱うような、リア充の生活描写が手に余る。しかし、自らの童貞性が暴露されるのも恥辱だから、威勢よくやってしまって、雷蔵のナンパがセクハラ・痴漢・ストーキングと区別しがたくなる。女体を愛でるにせよ想像…

若尾文子と童貞たち 『妻は告白する』 [1961]

小沢栄太郎がおもしろすぎて、これでは逆に困るのである。栄養不良で人事不省の若尾を「衰弱してるね、貧血だね」と介護するまでは良いのだが、それがその場で「結婚しよう」と飛躍してしまう。そして一緒になって若尾を扱いかねると、キャバ嬢のヒザ上で暴…

エヴァ破を見た

これでハリウッドと戦えるか、という話になると、台詞が説明と説教ばかりで野暮ったいのである。みんな思ったことをいちいち口に出さないではいられない。受け手のリテラシーを信用しないのである。ゲンドウと冬月なんぞ、ユイ3P計画を練ってるような有様で…

当事者不在の文明批評 『巨人と玩具』 [1958]

高松英郎の万能感が序盤でわれわれを魅了すればするほど、彼の野望がよくわからなくなる。役員の座を狙うにしても、シャブを打ってまで狂騒しては、造形の一貫性に齟齬が出る。他社との競合をモンタージュで扱うと割り切ったためか、苦しさのシグナルを一方…

野尻抱介 『太陽の簒奪者』[2000]

情報の大放流は読者へひとつの勝負を挑みます。情報ダムの貯水を巻末までストックできるか、われわれの興味を引きつけるのです。しかし先回ふれた『火車』は3分の1あたりで枯渇し、本作も100頁を超えて危急の課題がクリアされた時点で、節水が始まったと判断…

宮部みゆき 『火車』 [1992]

急速な情報流出は構成上の負債を抱えます。情報ダムの枯渇によって、早くも序盤越えで失速する事態を考えねばなりません(たとえばポール・ハギス脚本の『告発のとき』)。本作では文庫版の140頁あたりから始まるサラ金の規範的描画が枯渇の指標となるでしょ…

あの街へ帰りたい

鍵('59)→最高殊勲夫人('59)→さようなら、今日は('59)→おとうと('60)→ぼんち('60)→女経('60)→黒い十人の女('61)――この星のどこかにはイーストマンカラーと広角パースの街がある。そこでは船越英二、川口浩、市川雷蔵、勝新、中村鴈治郎、田宮二郎、加東大介ら…

スカイ・クロラを見た

これはよいね。ティーチャー=俺ということで、ここはひとつ。

雪さんがミテルだけ

ロバート・チャールズ・ウィルソン 『時間封鎖』 Spin [2005]

アンソロポロジーふうの篤実さも通俗のモデルも、造形に情報が伴えばイヤらしさから多少は免れるのですから、造形描画の水準においてジャンル小説の分限を守りたくあれば、ストーリーの生成を半ば記号化した造形に頼るのはつらくなるし、そもそも人類学的篤…

カズオ・イシグロ 『わたしを離さないで』 Never Let Me Go [2005]

細々と放流される情報ダムは、読者の関心を事件の顛末に駆り立てることで、その想像力と競合します。もし解答が読者の想像を超えなかったら落胆が大きいのです。しかし競合そのものを隠そうとしてダムの放流を絞ると今度はストーリーが流れなくなる。隠蔽の…

地球の片隅で白いハトを飛ばす

ロマンティシズムの映像文法は、対話や振る舞いの間合いに心理の説明を託します。ダイアローグで費やされる間合いの長短が、ロマンティシズムとリアリズムを分けるのです。 リアリズム文法で作られた『仁義なき戦い 頂上作戦』('74)とロマンティシズム文法で…