2012-01-01から1年間の記事一覧

埼京線に雪が降る 「桜花抄」『秒速5センチメートル』

童貞的な形質にとって、女の好意の符丁は永遠の謎である。岩舟駅の待合室で、来られるかどうか定かではない男を、あの女は待ち続けていた。愛を誤信した男は、南の孤島で妄想を膨らませた挙句、廃人となってしまう。男を待ち続けたあの愛の強度とは何だった…

ドヤ顔ポエジー 『パトレイバー2』

受け手が本作の社会的文脈に無知な場合、柘植の動機は法令やROEの整備に尽きてしまう気がする。戦後史の知識を欠いた人間には、立法の過程に関するテクニカルな話に過ぎなくなるのではないか。しかしそうなると、クーデターもどきに至る飛躍がわかりづらい。…

必然を知る 『デス・プルーフ』

オースティンの田舎道でジュリアの生足と対峙し、今まさに彼女らを轢殺せんとするスタントマン・マイクが、強烈なよろこびで私を満たしてしまう。これは何なのか。 いたずらに序盤の尺を浪費したガールズトークがこれから報復されようとしている。私はそこで…

男の美意識が猟奇化する浜辺 『HANA-BI』

『HANA-BI』のラストがよくない。あの二発の銃声を聞くと、最初に岸本加代子を撃ち抜き、次いで自分に銃口を向けるという小忙しい所作が見えてきて、説明過多に萎えてしまう。そもそも銃声で事態を説明する必要はないのであり、ただふたりの俯瞰からブームア…

超時空参謀・辻ーん、ならびにキャラの淘汰圧を不可視化する話 佐々木春隆『長沙作戦』

『長沙作戦』の佐々木春隆は思わぬ場所で辻ーんと遭遇している。南京の派遣軍総司令部に申告したところ、総司令官と総参謀長に続いて訓辞をしたのが、辻ーんその人であった。佐々木はその様子を「怪漢が演壇に躍り出て熱弁を振るい始めた」と記している。中…

韜晦した自意識の中心で父権は孤立する 『僕は友達が少ない』

キャラクターの一貫しない言動は、受け手のいら立ちを誘いかねない。われわれは小鷹を憎む。リア充を謳歌するにもかかわらず、殊更にフラストレーションをためてみせるこやつを憎んでしまう。われわれはまた、語り手の自意識もそこで疑っている。あくまで強…

世界観の正当性をめぐる自意識の戦場 『相棒 劇場版II 警視庁占拠!特命係の一番長い夜』

物語は、キャラクターの世界観や価値観を試すことで、かれらの人生の動機を顕在化させ、かれらの佇まいを観察に価するものへと昇華しますが、規範意識という社会性のバックアップは、しばしば、この企てを妨害します。たとえ災難が発生したとしても、キャラ…