メモ

物語の展開にとって生産的な状況とは人物の行動を描画することにある。つまり人の運動が依拠できるような計画や目的が必要である。したがって語り手は、人が計画を迫られるきっかけを考えねばならない。たとえば、彼は何かに遭遇し巻き込まれる必要がある。


わたくしが図書室で文芸部の美しい先輩にひと目ぼれしたとする。


恋というイベントに否応なく巻き込まれたわたくしは、そこで「どうやったらこの娘をたらし込めるか」といった計画の過程を陳述できるようになる。言葉をかえると、イベントはその成否を問える形に整えられたのである――この計画は成功するや否や?


ただ、その成否はどうであれ、結果が新たな計画を要請することに変わりはない。わたくしが先輩に求婚する計画を立て、それがいきなり達成され、幸福な人生を送りましたとなればプロットが続かない。つき合ってみたところ、先輩の同性愛が発覚するような新たな災難がほしい。そこでまた計画策定が始まるだろう。



ちなみにこのサンプルは、先輩と出会う前のわたくしに何か深刻な人生の動機を想定しているわけではない。むしろやむを得ないアクシデントへ対処療法してるうちに人生の動機は醸成されるのである。


対して、もしわたくしが先輩に求婚し「キモい!」と一蹴されたとしたら、人生の動機は初期値としてわたくしに設定されていたことになる。潜在化していた動機(キモい俺)が先輩のイベントと遭遇することで、見事に花開いたのである。