情報開示の効果とプロットの損益計算――『大奥』

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))
あらかじめポジティブな顛末を開示しているプロットがそこに至る過程で悲劇を煽ると、スリラーの効果を損ないかねない。たとえば『13デイズ』('00)で海上封鎖に至っても、キューバ危機の結果は自明なのでスリラーの緩和は否めない。本作にしても、吉宗の代まで一応続いているのだから、国の滅ぶ悲愴感と切迫感は減じるおそれがある。


ただ、村瀬正資の継続性に見られるように、前情報の提供には回収されるべき伏線を作成する機能もあるので、一概に意味がないとはいえない。伏線を張る利得とスリラーを損なうコストの計算がそこで行われるのだろう。また、吉宗以降の時代にも社会不安のフラグ(カピタンの件とか)を立ててやることで前情報の自明性を動揺させる工夫も見受けられる。