藤枝静男 『田紳有楽』 [1976]

田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫)
 物理的な査定の寛大さが仇になるのか、視点の操作や情報差のゲームが雑然としていて有効に活用されないし、想像力の地理的な版図も、叙述の詩学を弄するような刹那的な粉飾に解されがちだ。したがって物語の技術的なこだわりは、情報の差を万能感へ導く戦略に向かう。そこで風俗の広がりは、情緒的な帰依の還元に必要なプロットの容積と距離として合理化されることだろう。