蒼白な混擬土の天球に座り、君は僕のことを嗤うだろう (4)



4.蒼白な混擬土の天球に座り、君は僕のことを嗤うだろう



陥落した丸窓から注がれる淡い彩光を頼りに、わが輩とアンドレイ・ワシーリイチは本庁舎の階段を上った。時折、眼下に見えるのは天井の落ちた跨線橋と灯火の絶えた地上ばかりだ。



先輩の劫火にこの地上が焼かれてこれで何千回目だろうか。



今日もその人は、夕闇に囲まれた練馬区役所の尖塔に座り、蒼ざめた雲を眺めながら、男のことを想い続けている。すでに光を失った瞳は眠るように憧憬と溶け合い、その意味するところは分かち難い。



「とつぜんの雨だったの。びしょぬれで昇降口に駆け込んできた透くん、寒いからあたためてくれって、真顔で言ったの。わたしびっくりしちゃった」



幕を下ろすようなゆるやかさで、瓦礫の散乱する混擬土の床にその人は白い素足を降ろした。



「わたし、透くんのこと好きになるの。何度でも何度でも好きになるの。透くん、とってもやさしいひと。とっても勇敢だったひと――」



そして、その顔に浮かんだのは慎ましい驚きの影と抑えがたい悦びの色。その眼差しの先には、怯懦で固着したアンドレイ・ワシーリイチの口元。途方に暮れ泣き孕んだ瞳。光を失おうとも男の面影が見逃されるはずはないのだ。



「透くん…透くんなのね」



その人は静かに足を踏み出し、胸の動悸で戸惑うように震えながら男の手を取り、胸いっぱいに抱きしめた。



――わたしは、あなたを生きている。(了)