ロバート・チャールズ・ウィルソン 『時間封鎖』 Spin [2005]

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)
アンソロポロジーふうの篤実さも通俗のモデルも、造形に情報が伴えばイヤらしさから多少は免れるのですから、造形描画の水準においてジャンル小説の分限を守りたくあれば、ストーリーの生成を半ば記号化した造形に頼るのはつらくなるし、そもそも人類学的篤実さはこのあたりに端を発するのではないかと訝ります。したがって造形は事件の追感で埋め合わせたい。たとえ情報ダムの放流に均斉がなくなるとしても、事件を複線化させたい。



三角関係という人生の動機はこの際、同時に開示されつつある未来によって解決済みとされ、動機たり得なくなります。サイモンの造形が辛辣に扱われるため、彼に惚れたヒロインの造形すら疑わしくもなります。事件にしても自己充足の形で解決してしまい、これまでの工学的なアプローチに意味がない。



ここにおいて自己充足した事件の宿業さは、生理的困窮への対処と折り合うことで、落とし所を模索するように思います。最後までストーリーの形式的献身を当てにできたのは、そこから派生したロードピクチャーだったのです。