『プライベート・ライアン』を再考する


プライベート・ライアン』は「ガーランドとトンプソンの神話」をクリアするためにあれはあれで頑張ったのではないか、と先頃考えた。


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去年の春だったか、MD版のアドバンスド大戦略に突然狂った自分は東欧に侵攻し、破壊の限りを尽くした。この衝動は、数年おきに繰り返されている。


AD大戦略の生産首都は戦況が悪化すると後方へ移動する。手近な首都から落としてゆくと、敵の遅滞行動に巻き込まれてしまう。したがって、首都の手前で敵部隊を拘束しつつ別のCTを迂回させて、敵部隊後背にある逃亡予定都市をあらかじめ占拠しておかないと、スムーズに事が進まない。迂回機動や包囲の考え方が移動する生産首都によって再現されているのだ。しかしモスクワ4Pzあたりまで来るとマップがでかすぎで、別働隊のCTを迂回させるのは時間がかかる。敵部隊は拘束されてるから後背は手薄でAAAが鎮座するくらい。これをスツーカでつぶして空挺に占拠してもらう。


ところが、いったん占拠すると敵も感づいてユニットを差し向けてくる。こちらは歩兵だから航空支援がほしい。戦況次第で支援に多くを割けないと「アパム、弾持ってこい」となる。あの映画の終盤で橋を占拠してたのは、101dのパラシュート連隊であった。


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地獄のX島で米軍と戦い、あくまで持久する方法―最強の米軍を相手に最悪のジャングルを生き残れ! (光人社NF文庫)
ガーランドとトンプソンの神話というのは、兵頭さんの与太話で、話半分なのだが、『コンバット』の米兵は半自動のガーランドでドイツ兵をなぎ倒した、という神話である。現実の米兵はこんなことをしない。支援火力が優勢だから、白兵戦の間合いに入ってこない。また、いくら半自動のガーランドといっても分隊規模で見ればドイツ兵はボルトアクションでも互角に戦える。なぜなら米軍の分隊支援火器はBARくらいしかない。独軍にはMG42がある。


独兵がボルトアクションで拮抗できたなら、サンパチでも同じではなかろうか。旧軍にもチェコ機銃と擲弾筒の支援がある。ではなぜサンパチはボロクソなのか。けっきょく弾薬問題に帰着する。対してガーランドは兵站を自動車化できた米軍だけが装備できた。といっても、戦記を読むとさすがに南方ではSMGをほしがる場面がよく出てくる。なんでこんな簡単なものさえ融通できないかと。工数は小銃の半分くらいだから、旧軍でも装備はできだろう。ところがやはり兵站の問題が出てくる。あんな弾を垂れ流す兵器は使えない。


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米軍はガーランドとトンプソンではなくヤーボの支援で戦い、白兵戦の間合いに入ることはなかった。これ自体は非難に当たらないのだが、WWIIの戦争映画を作る上でひとつに課題にはなる。戦勝国映画に悲愴感を醸せない問題だ。これは8年ほど前に議論した。


ではどうやったら米兵が白兵戦に巻き込まれるのだろうか。ということで『プライベート・ライアン』の舞台設定が出てくる。後方の拠点を占領した降下兵が航空支援の遅延のために、やむなく白兵戦を強いられる。かつ映画は律儀なことに、遅れてやって来たヤーボにティーガーを爆撃させて、「ガーランドとトンプソンの神話」を否定するのであった。