十年目の『狂い咲きサンダーロード』

「シゲル……変わったな」という辰夫の台詞には、やはり誤誘導が含まれている。敵対者への言葉だから、シゲルはネガティブな意味合いで変わったのだと受け取りたくなってしまう。ところがこの後の台詞で、辰夫の意外な真意が明らかになる。「えらいカッコイイぢゃねえか」と彼は続けるのである。



ここでシゲルの成長は重要でないと考える。成長したのはシゲルを認められた辰夫の方である。この映画は辰夫の造形の恒常性に価値を置いていると思ってきたのだが、それは半分は正しくて半分は間違いと思うようになった。彼は実のところ成長していたのである。