松方弘樹のウロボロス 『野性の証明』

高倉健を空襲する松方弘樹のテンパり具合を教えてくれるのは、銃の反動に耐える彼の大げさな挙措である。そして高倉が死角に入ると、彼は「撃てるかな? 撃てない?」と逡巡する。挙措が固いから、遠景ショットでもその困惑が見て取れる。千葉真一がジャッキー的だとすれば、松方はキートンであろう。



根が小心だからこそ、松方は高倉を理解する常識人である。おそらく『野性の証明』唯一の常識人だと思う。だが物語は、松方に誰よりも近しいレンジャーたちを最高の狂人に仕立てる。普通科の隊員たちを刺殺する、彼らの躊躇のなさに、われわれは佐藤純彌の散漫が一線を越えたことを知るのだ。



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『広島仁義 人質奪回作戦』のラスト、あの発作的で不随意な弾着の舞踏に身を躍らせる松方は、場所が埠頭だけに、陸に揚げられのたうちまわる魚のように見える。実録やくざ映画という母なる海から揚げられ苦悶するクロマグロこそ、松方弘樹にほかならないのだ。クロマグロトーナメントはウロボロス的な自傷行為であり、その円環を断ち切るために、パイプカットが執り行われたのである。