アクション俳優・西村晃 『華麗なる一族』

佐分利と大同銀行の破綻を鴨川で企んだとき、西村晃は大文字を見上げ「ホホッ」と笑う。これがホともフともつかない鼻濁音なのである。佐分利が去ると、芸妓の耳掃除に恍惚となる晃。彼はぬるいトランスをはずみに裾へ手をやりセクハラを試みる。鼻濁音がその生暖かい物腰の中で視覚化されるかのようだ。部下の小林昭二が座敷に現れると、晃は何事もなかったように上座に着いて、取り澄ました声を出す。これはコントだ。しかし、渋る昭二に対し怒濤の説得工作を彼が敢行すると映画は喜劇でいられなくなる。「わたしが頭取なら副頭取は君しかいないじゃないか!」と二人して感激してしまい、見てる方も先ほどのコントを忘れるはめになる。



晃は、コントとシリアスの解離を自らの小兵さを利用してつなぎ止めたと言えるだろう。耳掃除から上座へ移動する身のこなし。昭二へ飛びかかる機敏さ。西村晃のアクション性は、『ボンクラ映画魂』でも指摘されていた。



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役員食堂で元日銀マン・二谷英明と会食する場面は更に戯画化の度合いが強い。昭二相手ではマンガが許されても、二谷では分が悪い。珈琲に砂糖大盛り三杯をこれ見よがしに入れても、むしろ二谷の心底イヤそうな顔に惹かれる。もっとも、二谷の背中越しでズズッーと珈琲を啜る爆音は戯画化か否かの次元を越えていて、音の芸術で背徳感を煽るばかりである。二谷には日銀マンのプライドがあって、晃の蛮行にも露骨に反応しないよう堪える。それがかえってわれわれを煽るのだが、晃の吸引音には心底吃驚したらしく、彼の背中には不自然な微動が見受けられる。おそらくリアルで吃驚したのだろう。