童貞の恋愛決戦主義

岡田斗○夫は、ひとつの個体に執着することを交尾機会の損失だと考えている。異性を口説く際、5分で決めてくれと岡田は相手に迫る。この方略には、雄の自尊心を温存できるメリットもあるだろう。交尾相手の候補が他にあることを示唆することにより、自分が希少であるという雌の抱く感覚を減じることができる。

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脈のありそうもない異性にいつまでも懸想するわけにはいかない。童貞をこじらせた小津が原節子の時間を止めてしまったように、人生の滞留する悲劇を繰り返したくはない。求められるのは、新たなる交尾機会の探索である。しかし長年懸想し続けた異性に未練が残ってしまうのも人情だ。万が一、脈あったとしたら悔やんでも悔やみきれない。解放されるためには、相手の感情を確証させる必要がある。あえて玉砕せねばならない*1


童貞の恋愛は決戦主義的だ*2。交渉を重ねて脈を醸成するという発想がない。彼らはそれを宿命的な事態だと考えている。人を変えることはできない。変える気力がないのである。



恋愛の決戦主義下において、未練を断ち切るために、懸想の相手の真意を確証すべく行動を起こそうとするとき、独特の感傷に襲われることがある。延々と温めてきた好きというこの感情がついに失われてしまう。劇場版カードキャプターさくらのごとく。


考えてみればこれは当然の話で、たとえ恋が成就したところで時が経てば恋愛感情は解消される。どちらにせよ同じことである。ただ、恋愛の決戦主義によって喪失の瞬間が特定されてしまうから、かかる感傷が出てくるのである。