心情を焦点化する(2)

台詞を言っている相手のカットとそれを聴いている人物のカットがつながれば、受け側の心情が焦点化されやすい。ひとつの理由として、しゃべらない方が表情の操作がやり易いからだろう。


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『ザ・マスター』の最後でホアキンシーモアが会話している。最初の印象だと、話はふたりの心情を平等に叙述しているように見える。


ところが場面が進むにつれてホアキンの心情が勝り始める。ホアキンの台詞が少ないこともあって、台詞を受けている絵はホアキンを切り取るときしか現れない。シーモアが台詞を受けている絵は1カットもない。



心情の力関係の分水嶺となるのは、ホアキンが「夢の中で貴方は言った。最初の出会いが分かったと」と訊ねるところ。ここでは台詞を言うホアキンの顔が映っている。台詞の後、それに答えるシーモアの台詞になるが、画面はホアキンのカットのままであり、彼がシーモアの台詞を聴く形になる。ここでシーモアが突き離された感が強烈に出る。反動として、ホアキンの心情が焦点化される*1