大海信長伝・下天II

先日『大海信長伝・下天II』を十数年ぶりにやって、このゲームの好きだったところをいろいろと思い出した。下天IIは今でいうならばパラドゲーである。17世紀前半が舞台で日本しか担当できないのだが、インドまで行くことができる。


武将の能力値の可変性が高く戦闘のたびに彼らが成長する本作にはシミュレーションRPGの趣がある。育てゲーの楽しさというべきか。本作の事実上のラスボスはヌルハチになるのだが、史実とは違い、放置しておくと雲霞のような騎馬軍団が日本列島に上陸してくる。女真軍団が山海関を破る前に武将と陸軍の熟練度を上げて満州に突っ込ませねばならず、時間との競争が緊張をもたらしてくれる。


今回、新たに気付いたこともある。



本作の根源的な課題は経済成長にある。経済成長を以て、やがて無尽蔵に湧き出てくる騎馬軍団に対抗せねばならない。ところが、日本の初期条件は大幅な財政赤字であり、“資金”はマイナス状態からゲームが始まる。この数値の意味するところがわたしの知識では不明瞭なのだが、とにかくマイナスになると以下の不都合が出てくる。まず兵力の補充・拡張が行われない。さらに資金の赤字が累積すると物価高になり人口が流出して一揆が発生する。結果、GNPが減少してしまう。


この機序は一見して不可解である。財政インフレはともかくとして軍備拡張できないのが解せない。ただこの点だけを見れば、発売当時の世相を反映しているのか本作は緊縮志向のゲームであって、最初に歳出を削減して資金のマイナスを解消せねば補充すらかなわない。しかし経済成長を期するとなると歳出削減だけではどうにもならなくなる。本作の経済成長は教育への投資とリンクしている。それをねん出するために歳入そのものを増大させる必要がある。ここで初期条件の財政赤字の意味が解されてくる。日本国内にとどまれないように設定されているのだ。ゲーム開始の翌年に家康の叛乱イベントが発生する。それをしのぎつつ東南アジアからインド一帯にかけて政務団を派遣して商館を建てまくり、イスラム商人から市場を奪うのである。これで一応、財政は黒字となる。だが、これがもし交易不能な世界であったらどうなるか。資源と市場へのアクセスが制限され経済成長の術がない世界だとしたら。そう思い至ると、本作は17世紀を舞台にしているようでいて実のところ近代日本のパロディであり、ヌルハチとはロシアのことだとわかってくる。交易不可という条件があれば、そのまま1930年代の日本のパロディになるだろう。


現代のわれわれは30年代の人々の行動をよく理解できなくなっている。ところが本作をやると、気づけば似たようなことをやってしまっている。


無茶苦茶に強い家康を1年かけて退治したのち、手元が狂って南進した信長軍団はベトナムに上陸侵攻。そのまま東南アジアを席捲する。安土に引き上げて数年の雌伏を経て、いよいよ満州に上陸してヌルハチと雌雄を決する。ヌルハチは気が遠くなるほど強い。撃滅に2年かかった。逆にヌルハチからすればこれは不条理な話で、とつぜん雲霞のごとく20万の砲兵とマスケット兵が上陸してくるのである。いったん撃退しても翌年にはまた同じものが来寇する始末だった。


こうして女真族を滅ぼした織田・羽柴・伊達・島津軍団は勢い余って山海関を超えて明国をなぜか蹂躙。そのまま天竺に達しムガール帝国を滅ぼし、ついでにアルマダを太平洋の藻屑とするのだった(BGM: 総進軍の鐘は鳴る)。