ダン・シモンズ 『ハイぺリオンの没落』

ハイペリオンの没落(上)
 会議室小説であるから、マイナ・グラッドストーンの機能面が突出して、悪化する事態に対応するマイナの根性が試されるおなじみの展開を期待してしまう。実際、半ばそのように構成もされている。しかし、根性を試す筋に割には、彼女の内面が開示され過ぎている感もある。内面開示はキャラクターの俗化と比例する。開示される分、根性の強度が脆弱となり試す価値がなくなりかねない。
 情報の開示傾向は内面にとどまらず、マイナには見えないが読者には見えている状況がしばしば展開される。情報を制限して緊張を煽るのではなく、MGMミュージカルのすれ違いラブコメディのように、あえて受け手だけには開示することで劇中のキャラクターに真相を早く知ってほしいという、よい意味での欲求不満を煽る形式が採られている。たとえばAIが提案した解決策が罠であることを受け手には開示されている。ところがキャラクターはそれを知らないという志村後ろ後ろである。


 AIが黒幕であるオチは人間賛歌というSFらしい文明オナニーで、これは直截すぎてこのままで享受できるものではない。ただ、文明オナニーは結末で細分化される。中華圏、中東圏、日本語圏等々と文明圏ごとに惑星が別れていて、事の顛末に際してそれぞれの文明圏がどう対処したのか総括がなされ、ステロタイプ通りの反応をそれぞれが呈すことになる。ニュー武士道というタームが出てきてしまうように、もともと日本語圏文明に好意的な作風なのだが、ここでも各文明が醜態を見せる中であって、日本語圏惑星は修羅場にあって何ともおいしい対応を示しており、不覚にもわたしは反応したのである。