第12話「宇宙よりも遠い場所」『宇宙よりも遠い場所』

 恋慕の未練を断つためには、求愛の対象にはっきりと拒絶されねばならない。しかし、求愛の対象が失われている状況では拒絶を被る手法が使えず、未練の苦しみから如何に脱するか、その手法を探求せねばならなくなる*1。『秒速』と『よりもい』が共通して設定した課題であり、その叙述にあたっては、両者に共通するガジェットが登場する。行き場のないメールである。

 『秒速』のタカキは劇中で頻繁にメールをしたためている。彼のメールには宛先がなく、恋慕の対象者を失い未練を絶てなくなった状況を判明させるのが「コスモナウト」のオチであった。『よりもい』はこの構図を継承して発展させている。秒速のメールは男が陥った状況とその困難の指標にとどまり、困難から脱する手段、つまり失われたはずの恋慕者からの拒絶には別のガジェットが用意されている。『よりもい』のメールは困難の指標であると同時に拒絶という解決手段でもある。報瀬が母のマシンを立ち上げると1000通を超える自分からのメールが着信し、報瀬が故人に膨大なメールを打っていたことがまず判明する。同時に、行き場のないメールが再帰的な形で彼女自身に到達することで、拒絶されたという感覚を彼女はようやく手に入れることができるのだ。が、それだけではない。膨れ上がっていく未読数が次第にある感情を計量化し始める。彼女がどれだけ母を想っていたのかを。