徳が凡人を追い詰める 『刺客列伝』

 英雄伝に出てくる小カトーの言動は、プルタルコス当人がマンガのような人生と評するように、徳高いというよりも基地外じみていてドン引きする。むしろカトーのサイコの様な徳高さについていけなくて泣き言を漏らしてしまう周囲の人々がコミカルですきだ。 
史記列伝 全5冊 (岩波文庫) 同様に刺客列伝の燕太子丹がすきだ。秦王政暗殺の話で、あまりにも徳高い現象が連鎖的に発生して凡人である丹を圧迫する。
 以下、あらすじ。
 燕は弱小で、このままだと秦に滅ぼされてしまう。太子の丹は憂慮に堪えない。そこに秦の将軍樊於期が嫌疑をかけられ亡命してくる。丹はこれを受け入れるがいよいよ恐怖する。亡命がばれたら攻め込まれてしまう。
 丹は、田光なる在野の先生を紹介され相談する。
 田光は、自分は老いぼれだから相談に乗れないと言って荊軻を紹介する。ここまではいいのだが、丹は恐怖の余り田光との別れ際に他言無用と言ってしまう。
 田光はこれに屈辱を覚え自らの首をはねる。
 丹はまずこれにドン引く
 紹介された荊軻基地外である。彼は秦王暗殺を提言する。しかし秦王は用心深く人を近づけない。荊軻は一計を案じて曰く。亡命してきた樊於期の首級を持って行けば秦王は会ってくれる。そこを狙いたい。
 太子丹はドン引く。考え直せという。
 それで荊軻は丹に内緒で樊当人に計画を打ち明ける。樊は感激して自ら首をかき斬って果て、駆けつけてきた丹をまたドン引かせるのであった。