『ヒミズ』(2012)

 これもまた作者の本音を偽る類の話である。あの冒頭の、担任が住田を囃し立てる場面だが、「みんな特別、ひとつだけの花、すみだがんばれ」云々とつらい。これは古谷実ではなく園子温の台詞だろう(原作未読)。いずれにしても、作者の本音だとは思われない。劇中でも住田と茶沢が教師に否定的な見解を直ちに示して、彼らの方が作者を代弁していると思わせる。しかしそれが引っかけなのである。あろうことか「ひとつだけの花」が作者の本音なのである。
 前に言及したが狩野すみれ、『とらドラ!』の生徒会長。
 このひとは言動があざとい自己劇化の人物である。しかし作者は生徒会長をあざとい人物としてこき下ろしたりしない。わたしは、こういう人物を是として造形した作者を軽蔑したのだが、作者は本音を隠していて、後々、大河に生徒会長をあざといと非難させる。作者は自分を低く見せることで引っかけをやっていた。
 それと、これもまた言及したが伊丹十三の『大病人』。『ヒミズ』の引っかけはこちらのほうが近い。
 三國連太郎は末期がんである。主治医の津川雅彦が「がんばろう」と励ます。三國はこれを嫌がり、「がんばろう」に対する否定的見解が作者の本音だと思わせる。ところが死に際になって、三國は「がんばろう」を肯んずる境地に達する。作者は本音を偽っていたのだ。


 園のヒミズは、住田らの窮地がよく伝わらない。演じるのが染谷将太二階堂ふみで、どこから見ても普通ではない人々である。劇中でもそう扱われる。マンガのような類型的不幸がマンガのような超人を襲うばかりで、超人だから困窮が見えてこない。住田が父殺しをしても、それまでマンガのようなことばかり起こっているから、あらためて罪の意識に苦しまれても唐突である。
 映画はここから原作より分岐して、自首する住田とそれを励ます茶沢という絵になる。茶沢は冒頭の教師の「すみだがんばれ」を踏襲して、それが作者の本音だったと明かす。彼らが本当に困っていたことがやっと実感できる。こういう励ましにすがらなければならぬほど行き詰まったのだ。
 ここの二階堂はすごくかわいい。
 語尾の調子がバラバラで、アドリブが入っているじゃないか。「すみだ何か言え」とか。染谷ではなく、この状態にあっても人間に対する肯定的な見解に達しえた女の強さに惹かれた。