ロードするのかしないのか

 『砂と霧の家』(2003)のジェニファー・コネリーは警官と不倫する。アルコール依存症の彼女は警官の銃で自殺を試みるが、トリガーは引けど弾は出ない。警官のベレッタはマニュアルセイフティでロックされている。
 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)ではケイシー・アフレックが警官から銃を奪い、衝動的に自殺を試みるも弾は出ず自殺は叶わない。その銃もやはりロックされていたのか。違うのである。警官の銃はグロックである。マニュアルセイフティはなく、トリガーを引いたら同時にロックが外れる類の銃である。トリガーを引いても出ないとなると、弾が薬室に装填されていない。しかし殊に警察官が弾を装填せずに銃を携帯することがあり得るのか。もちろん演出上の理由があって、自殺に成功されたら困るのではあるが。
 理屈で考えればありえない。装填せずに携帯するなら、そもそもセイフティという仕組みが要らない。
 未装填では突発的な事象に対応できないだろう。『プライベート・ライアン』のトム・サイズモア軍曹を見給え。
 大阪のG20で警備中の海上保安官がマガジンを海に脱落させた事故があった。海没した弾数は14発。チャンバーに装填して携帯していたのである。
 とうぜん装填して携帯するものだとばかり思い込んできたのだが、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を見て不安になった。現実には装填しない現場があるのかもしれない。
 ググってみると、インストラクターはチャンバーに装填して携帯せよと教えるとある。が、それでもなお、ロード派とアンロード派に分かれるというモヤモヤした結果が出た*1
 S.E.A.L. Team Six先日、SEAL Team Six を読んだ際、このモヤモヤを象徴する件が出てきた。作者が参加したのはモガディシュの戦闘で、90年代前半の少し古い話である。
 シールズのオペレーターである作者は同伴するレンジャーの交戦規定を見て驚愕する。拳銃ではなくライフルではあるが、発砲直前まで装填するなと指示がある。作者は驚愕したのだから、アンロード派がイレギュラーな証左となるだろう。
 作者は占拠に向かうレンジャーらにロードしろと声をかける。レンジャーたちはみな不思議な顔をする。誰も不合理な交戦規定を問題にしておらず、ライフルは当然のごとくロード済みであったのだった。