ウラル - アドバンスド大戦略

 モスクワ4pzにおいてカリーニンからヴォルガを渡河してモスクワを後背から襲うとなると、マップの制約から、史実から見れば不可解な事態が生じてしまう。前に触れたとおり、ゲームでは何の抵抗もなくモスクワ運河東岸に沿って南下できる。モスクワはマップの東端にあり東からはもはや圧迫がない。ところが実際は、モスクワの後背にはジューコフの西部正面軍がまだまだワラワラと控えているはずで、モスクワに向けて南下中にも東から相当な圧迫があって然るべきである。4pzを完勝して行けるウラルはこの問題を解消すべくデザインされたマップである。
 ウラルと4pzはモスクワを中心にして接続している。4pzはモスクワ西部を戦域とし東部を扱うウラルではモスクワが出発点となる。

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 ウラルはアドバンスド大戦略ユーザーにはおなじみの、最終のドイツマップと並ぶ極悪マップである。北からはカリーニン正面軍、東からは西部正面軍とウラル正面軍、南からはヴォロネジ正面軍が雲霞の如く殺到し包囲を完成させようとしている。モスクワ到達と前後して後背の予備が襲い掛かってきたと設定することで、4pzの不可解が解消されているのだ。
 このマップは普通にやれば初期配置の赤軍ユニットにボコボコにされて終わりになりかねない。完勝を目論むわたしは百年戦争を経て1946年春に遥々このマップに到達した。さすがにEシリーズ+ジェットの架空戦記軍団をもってすれば、ウラルマップといえども何とかなるんでないか。しかしEシリーズ+ジェットで臨んでもつらかった。が、見えてきたこともある。このマップ、極悪な初期配置ばかり注目されるが、デザイナーの目論見は別のところにあったのではないか。
 具体的な攻略法を見ていこう。
 凶悪な包囲網にウンザリしながら、さてどうしたものかと眺めていると、北のカリーニン正面軍が4pzで一度敗走させたからか手薄であることに気づく。実際に北からは容易に包囲を突破出来てカリーニン正面軍の生産首都に到達できる。したがって北ルートから逆包囲を試みたくなる。
 これが罠なのである。三面包囲というか釣り野伏せというか、北ルートに誘導したいがために故意に薄いのであって、カリーニンの生産首都とそのすぐ後背にある西部正面軍のそれを落としても次々と後方へ遷都する。遅滞戦術の泥沼にはまり込んだ体となり完勝の見込みは立ちそうにない。南ルートが正解なのであり、ヴォロネジ正面軍の分厚い戦線にあえて突撃して、そこから包囲を崩さねばならないのだ。
 カリーニンとは違いヴォロネジの生産首都はひとつしかない。忍耐してここさえ落としてしまえばマップ南部一帯を占めるヴォロネジの都市は全て落ちて補給(軍事費)の問題はなくなる。北ルートと違い南はがら空きで、ヴォロネジ正面軍を突破した段階で赤軍は総崩れしたと解せる。後はターン内にいかに包囲を完成させるか時間の問題となり、退路を絶つべく先行して外周する空挺部隊と連携しつつ陸上ユニットを迅速に侵攻させるだけの話となる。

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 このマップは包囲の突破が事実上終結となる。したがって出来るだけ速やかな突破が最大の課題となる。この分厚い包囲網を崩すには航空支援が不可欠だが高射砲が多すぎでままにならない。そこでまずAAを排除するために砲兵の支援を仰ぐことになる。いかにはやく南方に砲兵を展開させるか。これがまず完勝の条件のひとつになる。なお現代の米軍の近接航空支援の教科書にも対空脅威が存在するケースでは砲兵支援を同時にやるとちゃんと書いてある。
 他にひとつ課題がある。ヴォロネジの生産首都を迅速に落すために爆撃機と輸送機を早めに展開させたい。このマップでは爆撃機と輸送機をただ空港から出しただけでは袋叩きにされてしまう。しかし出せないからと言ってモタモタするわけにもいかない。
 こちら分岐表によればウラルマップは60ターンで完勝とある。60ターンならば突破に多少モタついても何とかなる。わたしはこの数値を信じて55ターンでクリアしたが完勝にならなかった。実は50ターンが正解で、これだとモタモタする訳にもいかない。ある程度Me262を離陸させて砲兵を展開できたならば、一刻も早く爆撃機と輸送機を出すべきだ。そこで空港の四周を自ユニットで固めて無理やり放り出すこととなった。これで45ターンで完勝できた。

 初期配置の凶悪さに目を奪われてしまうが、ウラルは4pz以上に、戦線を突破して包囲を試みるブリッツクリークの典型的様相が再現されたマップだ*1。ターン制限が包囲という戦術行動にともなう逼迫感をもたすのである。

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 また、外周する空挺部隊と内周する地上部隊の連携は湾岸戦争のシュワルツコフの左フックそのままである*2。戦史マニアの人たちが立案した作戦だからそうなってしまうのだろうが。

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*1:田村尚也「戦術入門【歩兵中隊・大隊・連隊】」『歴史群像アーカイブ第2巻 ミリタリー基礎講座 戦術入門』2008年, 19頁

*2:田村尚也「戦術入門【機甲師団】」前掲書, 53頁