West,B (2020) The Last Platoon

The Last Platoon: A Novel of the Afghanistan War戦記物の定石をまず外してくる。新卒士官がベテラン下士官にドヤされるのが通例であるが、本作では逆になる。


アフガン南部にマリーンの Firebase がある。そこに駐留する security platoon の小隊長が盲腸を患った。代役でやってきたのがクルツ大尉である。かつてはファルージャやアフガンで勇名を馳せた彼は、10年前に帰還してリクルートをやっている。


現着したクルツを Firebase の大佐は歓迎しない。クルツの任期は1週間。大佐はクルツを露骨に部外者扱いして、小隊軍曹のサリバンと話をする。


クルツが考えるに、大佐にはふたつの人種がいる。退役間際の大佐はリラックスしている。閣下を狙う大佐はピリピリである。この大佐は後者である。


小隊の実権はサリバンにある。これをどうやって掌握するか。クルツの最初の課題である。作者にすれば、クルツの能力を証明しかつサリバンの能力を貶めるイベントを仕込まねばならない。


分隊がパトロールに出る。クルツとサリバンも同行する。分隊はクリークの手前で立ち往生してしまう。対岸に姿の見えないスナイパーがいる。


渡河をスナイパーで妨害するのは定石だが、スナイパーへの対処も決まっている。迫を撃ち込むか煙幕を張る(『フルメタルジャケット』をみよ)。ところがサリバンが固まってしまう。 security platoon の兵士たちには実戦の経験が乏しい。この10年、現地では小康状態が続いていたのだ。クルツが指揮を代わり迫を要請する。


デブリーフィングでクルツはサリバンに問う。なぜ迫を撃たなかったのか。サリバンは交戦規定を持ち出す。PIDがなければ射撃要請ができないと。PID = positive identification of an enemy である。サリバンはPIDを目標の視認と解釈している。クルツにとっては莫迦らしい話で、撃たれた時点で即PIDである。クルツはサリバンを評する。野心家のこの男には tactical sense が欠ける。が、部下を想う徳もある。クルツとサリバンの間に役割分担ができあがる。


小隊は二度目のパトロールに出る。IEDを発見した分隊長のビンズが動転して工兵を呼んで爆破しろと騒ぐ。クルツはビンズの脊髄反射に呆れる。時間がないから放っておけと命じる。


分隊が銃撃を受ける。クルツは機関銃を小隊付きスナイパーの許へ行かせるよう命じる。ビンズは抗命する。


"It's my fucking squad!"


スナイパーは敵の方位を知ってると言われ、ビンズは渋々同意する。


実戦経験のない小隊の下士官たちはクルツのブロンソン振りにキラキラしてくる。部外者に小隊を掌握された大佐には面白くない。何より大佐にも実戦経験がない。クルツの存在がいらだたしい


小隊に最初の負傷者が出た。基地の入り口で担架を出迎え、負傷者を大げさに励ます大佐の態度がクルツには不自然に見える。まるで戦争映画のイミテーションである。このひとには実戦の経験がないとクルツは悟る。


トロールが銃撃を受け状況が錯綜する。基地で見守る大佐はテンパる。現場への口出しはいけないと分かってながら、我慢できず報告を求める。クルツにはその暇がない。"Wait one." と返された大佐は "Don't tell me to wait!" とキレてしまう。


誤爆で重傷者が出る。瀕死である。クルツがオスプレイを要請すると大佐はまたしても口を挟む。


"The zone's not secure. We're talking about a V-22."


クルツは内心毒づく


We're talking about a fucking life.


けっきょく助からなかった。基地に戻ると彼は苦しんだかと大佐は聞いてくる。クルツは仰天する。


Suffer? He facking died! He was too scared to feel pain.


一人になった大佐は嘆じる。ついに死者が出てしまった。これで閣下は水の泡。そう考えてしまう自分を恥じる。


基地が銃撃されると、テンパった大佐は迫を撃てと命ずる。目標は逃散して効果がないとクルツは諫めるも、大佐は激昂するばかりである。


事実上の主人公は大佐だろう。大佐の失態には溜飲が下がる。しかし、そればかりではない。


大佐は自己劇化の人である。上司のキリアン将軍にはこれがイヤでたまらない。誤射を報告する際、大佐は汚れた着装のままキリアンとモニター越しに対面する。誤射の原因を訊かれるとクルツの責にする。大佐の自己劇化と責任回避にキリアンはいらだつ。


大佐は異邦人なのだ。本作はビング・ウエストらしく海兵隊イデオロギーを称揚する話である。クルツとキリアンはその組織文化を体現する人物として造形される。大佐に対してクルツは行動を以て、キリアンは言葉によって海兵隊とは何ぞやと例示する。大佐は海兵隊というイデオロギーと対峙して挫折する。


クルツだけならば、溜飲が下がる話に終わるだろう。キリアンとクルツが板挟みにするから後味は複雑になる。


他方で、クルツの結末は明るい。活躍の一部始終を見た現地CIAがクルツをリクルートする。オスがオス性を充足させる情景は観察者にも安らぎを与える。