クリストファー・プリースト『隣接界』

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)ふたつの矛盾する原理が物語を運行している。オスの辛み問題がある。オスとしての自信を失った男がいる。他方で根拠なきモテがある。偶然の作用で格上のメスにモテてしまう。理由なきモテはポルノであるが、オスの辛みは持続し男のクヨクヨは止まらない。


相容れない原理の並走はさまざまな喜劇じみた効果をもたらす。筋のつながりは弛緩して話は核心の周縁を低回する。モテに過程がないために、言い寄ってきた女は過程もなく消える。マクロスケールでも不備は現われる。男は公有地ベースの封建制という謎国家に迷い込む。教科書的理解では、封建制を古代国家と分けるものは私的所有のはずだが。


どういう落とし前をつけるのか? プリーストだから構造の緩さを合理化するアイテムが出てくるはずはない。欲しいのはポルノでありながらオスの感傷が続く理由
ないし感傷が続いてもおかしくない構造の方だ。


最後に女の視点に切り替わる。記憶に過程がない男にはモテるにしても理由を要しなかった。女には歴史があり完結した活動がある。その顛末には感傷がある。女の顛末は男の人生とさほど関わらないが、タイトル通り事態の近接性が、女の顛末がもたらす感傷を男の人生へ伝播させて、ポルノであってもなおオスの感傷を成立さる。構造の緩さが異世界の垣根を越えて感傷を融通させている。