ギョッとした話

『ちょっと思い出しただけ』(2022)の池松壮亮には行きつけのバーがある。店名は「とまり木」、マスターは國村隼である。序盤でバーが初出の際、カウンターの向こうに鎮座する國村を認めてギョッとした。むろん、池松はギョッとしたりしない。この世界の國村は俳優國村ではなく市井の人なのでギョッとする謂れがない。


終盤で國村の恋人が登場する。菅田俊である。またしてもギョッとした。狙い過ぎというか、あざというか、何も考えてないというか、安易というか。この菅田があの東映特撮声でオラオラと池松の口にケーキを突っ込んでくる。天国なのか地獄なのか大混乱である。


『特攻サンダーボルト作戦』(1977)に好きな場面がある。ブロンソン初出の場面である。会議のシーンで画面外からあの気品あるブロンソン声が聞こえてくる。次に何気なくブロンソン将軍の姿が画面に入る。仰々しい登場ではない。本当に何気なくブロンソンは姿を現す。何気ないだけにかえって到来が人目を惹く。國村と菅田の初出も同様である。何気なくあの鬼瓦が画面に佇むからギョッとしてしまう。


この感じは『孤独のグルメ晦日スペシャル〜食べ納め!瀬戸内出張編〜』(2017)の柄本明といえばいいか。松山の「さかな工房 丸万」の暖簾をくぐるとカウンターの向こうに柄本明いる。居酒屋の大将が柄本明だったら普通ギャッとなるだろう。孤独のグルメの世界では柄本は俳優ではなく居酒屋の大将であるから、松重豊はギャッとしたりしない。もちろん松重自身、俳優ではなく雑貨商である。ところが、おかしなことになる。


ドラマの終盤、成田の多津美で松重は客の瀬川瑛子と遭遇する。ここでは松重はギョッとしてしまう。「瀬川瑛子だ」と。この世界の瀬川瑛子瀬川瑛子なのだ。多津美の場面はライブであるゆえに時空に歪みが生じている。終いには、蕎麦を啜る松重の背後から久住昌之までも登壇し事態はメタメタを極めるのであった。