物証から誤誘導する 「#14 それぞれの時効」『LAW & ORDER:性犯罪特捜班 シーズン1』

時効を迎えようとする連続レイプ事件に進展があった。事件の直前、被害者の周辺に怪しい男が出没している。被害者の一人に心当たりの人物を尋ねると女は口ごもる。犯人は赦した、もう忘れたい、このまま時効になってほしいと発言を拒む。女は事件後、クエーカーに改宗している。


女の理屈には論駁が来る。野放しは危険である。この問題提起は幾度か作中で繰り返される。


再犯はあり得ないと女が抗弁することで、彼女が犯人を知っていると判明してしまう。事件後、女は犯人と偶然再会する。改心した男もクエーカーになっていた。彼は女と再会して自首を決意するが、女はそれを止めている。


レイプ犯は再犯率が高く危険だと説かれても女は自信を崩さない。その自信がミステリーを設定する。なぜ再犯はないと保証できるのか。


事態は宗教劇じみてくる。証言を強いるため女は法廷に引き出されるが証言を拒み、法廷侮辱罪で収監される。名簿を差し押さえるべく捜査陣が集会に赴くと、会徒たちは手向かわず捜査陣の挙動を座視するばかりであり、いかにもクエーカーらしい。


再犯のあり得なさが不合理な宗教的情熱に基づくのなら、捜査の正当性は損なわれない。当人がたとえ改心したとしても生理現象に勝てるのか。また道義的責任もある。改心は償いを無効にしない。


しかし、名簿から犯人が判明するとまず道義的責任の外堀が埋まる。レイプ後に強盗未遂で収監された犯人は刑務所内で今度は自分がレイプ被害に遭っていた。逮捕の正当性は再犯の可能性のみに依拠してくる。


時効の5時間前、犯人の勤務先に赴くエリオットとオリビア。逮捕される犯人の顔が見たいとエリオットは溜飲を下げる風である。そして、犯人の姿にドン引きする。


心理主義批判は誤誘導であった。再犯不能の不合理な確証は宗教的情熱ではなく物証に基づいていたのだった。交通事故で男の下半身は不随になっていたのである。


刑務所レイプと交通事故で道義的責任は相殺され、再犯不能には物的担保が設定され、捜査の動機は今や喪失した。男は罰せられたのだ。にもかかわらずミランダ警告機械的に唱える破目になるエリオット。人間疎外の図である。罰を下そうとした自分が罰を被ったのである。