2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『ゴールド・ボーイ』(2023)

内容に叙体が合わないためなのか、そもそも語り手が狂っているのか。物語を統べるはずの倫理・価値観の消失点が捉え難いのである。 まず叙体の古さに出鼻をくじかれる。現代の流行から見れば中庸な、平成初期の叙体である。 金子修介の登用は一面において正…

N・K・ジェミシン『輝石の空』

季節変動を克服するために社会的対応としてカーストが制度化され、物理的対応としてサイキック人類が創造された。季節変動の終息がサイキックであるヒロインの課題だが、カースト社会の是正が物語の真の目的である。季節変動は社会問題を設定する手段にすぎ…

『さかなのこ』(2022)

現実の当人とは関連のないカメオ的な役柄で原作者が投入されたのなら、不都合は生じなかったはずだ。当人に類する姿態で登場するから存在論の不穏が始まる。彼は何者なのか。 原作者はのんの雌雄反転配役に信憑性を与える補助線なのだろう。当然ではあるが、…

旅する共同体

18世紀半ば、ジュネーヴの市民革命は頓挫し貴族の寡頭政治に移行した。ジュネーヴからイングランドへ亡命したジャン=ルイ・ド・ロルムには、イングランド王権の強さが魔法のように見えた。フランス王は議会を従属させるために軍事力の行使をちらつかせた。…