2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『せかいのおきく』(2023)

接写された人糞に柄杓がインサートされ粘着音を立てる。意図過剰のイヤらしいカットだが、人糞に対峙する池松の険しさは笑いである。これは池松の徳操を観測する話なのだ。 彼の徳は寛一郎を放っておかない。厠で二人は雨宿りする。黒木華もやって来て雨宿り…

カレー考

調理に際し重さで具材の分量を割り出すと味が決まりだすので計量に病みつきになる。 自炊を始めた当初はハカリを持たなかった。味噌汁のみそは200mlにつき大さじ一杯であり、重さを知らなくても作れる。ダシはそうもいかない。100mlにつき3gの煮干しでダシが…

『枯れ葉』Kuolleet lehdet (2023)

職場に潜む不穏はことごとく気品ある顛末に至る。女に向けられる警備員の視線はセクシャルだが、彼が女にもたらすのは暴力的ではなく社会的な災厄である。バーの裏口で薬物の売買を女が目撃して不穏が仕込まれる。確かに累は女に及ぶが、警備員の件と同様に…

キム・スタンリー・ロビンスン『未来省』

炭素の固定と引き換えに発行される仮想通貨が登場する。作中ではカーボンコインと呼ばれる。土地に炭素を吸収してコインを得ようと試みる農民の話には次のような文章が出てくる。 「小作農の尻をたたいて木や多年生植物を植えさせた」 作者は左派の人である…