2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

実存開明

どうも私には今の私が本当の私だとは思われない。私が私自身に至っていない気がする。しかし、なぜ私は私自身になりたがるのか。どうやったらそれになれるのか。そもそも私自身とは何か。 本当の私である私自身を目指す運動は、スコラ学者を煩わせた神学論争…

『すずめの戸締まり』(2022)

幼女が常世をさまよう冒頭は「コスモナウト」の援用だろう。コスモナウトの冒頭では、タカキ君が明里の幻とマヨイガでデートする様子が活写された。幼いすずめもマヨイガ酷似の曠野に迷い込んでいる。顔を上げるとその先には明里っぽい人影がある。わたしは…

『余命10年』(2022)

『ヤクザと家族』(2021)の舘ひろしは、ナメクジのような表情と声音の展性でオヤジのナルシシズムをねっとりと演じ、館内を爆笑の渦に叩き込んだものだった。しかし、後半で死病に至ってしまうと、ナルシシズムの粘着的な間の取り方が老人の生理とかみ合って…

貴志祐介 『新世界より』

瑕疵のある設定にはふたつの可能性を想定してよい。真正の瑕疵なのか。作り手は承知の上で瑕疵を設けたのか。 本作で問われるのは作り手の人権観である。 人間が巨大なネズミをエッセンシャルワーカーとして使役している。遺伝子を組み替えられたネズミの知…