2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

明里のジレンマと作家の誕生 『秒速5センチメートル』

大雪の岩舟で待ち続けたことで明里には造形上のジレンマが誕生した、と見てよい。惨劇は、タカキ君が明里の真意を誤解して始まったのだが、その思い込みに咎を負わせるのは酷なのである。待ち続けた彼女に好意を確信するのは自然であって、タカキ君にそう思…

ラジオ英会話考

昨今、食器洗いのお供にBBCワールド愛聴してきたのであったが、折り悪くプレミアリーグの実況に当ってしまうと、サッカーには門外漢のこちらには訳が分からず、果たして勉強になるのか不安になる。そこでラジオ英会話を聴くととして、余った時間をBBCに振向…

徳には時間の概念がない

後悔は不合理である。もはや取り返しがつかないのだから、それにクヨクヨしても徒労である。これは、徳が時を区別しないことの例証である。 カントは徳の実例にあまり言及しない。史記やプルタルコスを紐解けば、ギョッとする実例は枚挙のいとまがないのであ…

ヘンリー・ジェイムズ『モーヴ夫人』

貴族にあこがれるアメリカ娘がフランスの没落貴族と結婚する。娘の実家は裕福な中産階級である。結婚後、夫はパリに出かけ女を作りまくる。男の方は金目当てで結婚したのだった。 妻はサンジェルマン・アン・レーの見晴台で毎日黄昏る。そこにアメリカ男が通…

『あのこは貴族』(2021)

これはタイトルがミスリードしている。冒頭で人々が会食している。彼らの挙措には違和感がある。あまり貴族していない。彼らが開業医の一家だとわかって事態が判然となる。貴族ではない。典型的な中産階級なのだ。 ムギムギと水原希子が階級をまたいで通じ合…