ドラマ

物証から誤誘導する 「#14 それぞれの時効」『LAW & ORDER:性犯罪特捜班 シーズン1』

時効を迎えようとする連続レイプ事件に進展があった。事件の直前、被害者の周辺に怪しい男が出没している。被害者の一人に心当たりの人物を尋ねると女は口ごもる。犯人は赦した、もう忘れたい、このまま時効になってほしいと発言を拒む。女は事件後、クエー…

「第45回 八幡宮の階段」『鎌倉殿の13人』

考えてみれば妙な感じがする。立ち去る平六が衿を触り、小四郎を失意のどん底に追いやる件である。平六の裏切り性格は周知であり、しかも平六は小四郎に憎悪を隠さなくなっている。今さら平六の真意を知ったところで、それは量的な驚きであり質的なものには…

「第38回 時を継ぐ者」『鎌倉殿の13人』

北条一家はまことによくわからない。事が済んでしまうと、自分たちの殺害すら目論んだ義母を相手に、政子も義時も団欒を再開できてしまう。夏目雅子は「美しいロシア」と書くことができなかった。書けないからこそ、ロシアをどれだけ愛していたか証明された…

ギョッとした話

『ちょっと思い出しただけ』(2022)の池松壮亮には行きつけのバーがある。店名は「とまり木」、マスターは國村隼である。序盤でバーが初出の際、カウンターの向こうに鎮座する國村を認めてギョッとした。むろん、池松はギョッとしたりしない。この世界の國村…

「第一話 夜霧の殺し節」『影同心』

最初に人間の不快がある。夜鷹は断られた客に悪態をつく。金貸しの菅井きんは奉行所の門前で絶叫する。怠惰な渡瀬恒彦らは夜鷹殺しに関心を示さない。彼らをどうやって事件にのめり込ませるか。契機は偶然かつ効率的である。 渡瀬が質草を取り戻しにきん宅へ…

「第20回 帰ってきた義経」『鎌倉殿の13人』

サイコを扱うとなれば、サイコの哀れに到達すべきだ。サイコの自意識を発見すべきである。この人生は苦痛であったと。九郎の場合、その自意識が最初に露見したのは壇ノ浦の直前だった。景時に自分のサイコ性を指摘して謝する場面がある。サイコを非属人化し…

「第15回 足固めの儀式」『鎌倉殿の13人』

認知の不協和は絶えず感知される。上総介が頼朝を武衛と呼ぶたびに不安を掻き立てられる。上総介は同輩のつもりで頼朝をそう呼んでいる。頼朝はリスペクトだと解しているが、上総介のタメ口と武衛の尊称には矛盾がある。頼朝の中でこの認知的不協和はどう合…

『渚のシンドバッド』(1995)

田舎に隠遁した浜﨑あゆみを男どもが追う場面は、ギャルゲの懐かしい感じがした。各方面に影響は与えたのだと思う。この浜崎はおそらく『放浪息子』の千葉さおりの原像でもあるのだろう。今更ながらそういう学びがあった。 しかし悲痛な設定の割には慰藉の余…

「ゴルフ場殺人事件」『名探偵ポワロ』

ヘイスティングスが後の妻と出会う話である。ヘイスティングスが意中の人を口説き落とせたことで、オスの成熟という物語の課題はこのエピソードを以て一応は達成されたことになる。しかしその後味は複雑である。この話数は、アガサらしいといってよいと思う…

「100万ドル債券盗難事件」『名探偵ポワロ』

アガサ・クリスティだから『ポワロ』には変装ネタが多い。不審人物が出たら誰かの変装だろうで片付いてしまう。ミステリーとして見れば心許なくなる話数が多い。しかし『ポワロ』にはミステリーと並走してシリーズ全体を通底するもうひとつのモチーフがある…

阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』

『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』のシーズン1に障害者の犯罪を扱った話数がある。障害者といっても犯人はボーダーに近いために自活している。回りも彼に障害があるとははっきりと認知していない。当人は自尊心から障害を隠そうとする。犯罪は過失に近い。他方…

『半沢直樹』(2020)

半沢という人は超人あるいはサイコであって、彼固有の属性に由来する悩みがない。たとえ悩みに襲われても状況依存的でその場限りでのものである。彼には負い目がないのだ。普通の人である大和田の方が観察対象としての価値はよほど高いだろう。しかし彼は彼…

「スタイルズ荘の怪事件」『名探偵ポワロ』

ヘイスティングズはダメな大人である。ベルギーでポワロと知り合って感化された彼は復員したら探偵になりたいと目をキラキラさせる。しかし才能がない。ポワロに弟子入りしたものの、貴方の推理にはいつも驚かされると嫌味を言われる始末である。ヘイスティ…

『七つの会議』(2019)

いつもは大和田と抗争する半沢の傍らでヘラヘラとしていた及川が今作でついに当事者となって香川照之に激詰めされるのである。一種のホラーであり及川も期待通りのストレスフルな反応で沸かせる。が、やはり及川というべきか、この人、半沢とは違った意味で…

『スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜』(2019)

これもまたつらい話なのである。 大部屋俳優、内野聖陽は殺陣の専門家である。台詞がダメで切られ役ばかりである。彼は大部屋仲間の中村獅童に自らの切られ役人生を自嘲してみせる。 この場面、獅童のイライラした反応が露骨なのだが、それでも作者の意図に…

聖人の外部性 『おしん完結編』

学生の時分に総集編で見た『おしん』の完結編は波乱のない消化試合だった。今回、本編で完結編を見たところ全く印象がかわった。田中好子の紛れなきアイドルドラマであった。完結編の好子は中学のときに思慕をしたクラスメイトBさんに似ている。彼女が画面に…

人格サルベージ 『おしん自立編』

佐賀編の顛末は最初から予想がついてしまう。どんなにいじめが激しくとも、どうせ清は善人に変貌して和解するのである。 この予断には伊東四朗の存在が大きい。 中ボスとしておしんを苛め抜てきた伊東は、死に際になると突如善人と化しておしんと和解したの…

おしんの非戦論と外貨の天井

おしんのパシフィズムとその裏返しである辛辣な国家観を評価するのはむつかしい。市場主義者おしんにとって近代国家は商売の邪魔にしか見えない。統制経済下で彼女の魚屋は配給所でしかなくなり廃業を強いられたのだった。 国が市場を損なったと難じるおしん…

才能の調整弁 『おしん試練編』

『おしん』試練編の前半はロバート・オウエンの自叙伝が下敷きになっているのではないか。10歳で生地商へ奉公に出たオウエンは17歳になると紡績工場を経営するようになり、そこで労働環境の様々な改善に取り組んだ。 おしん試練編前半の舞台はWWI後から関東…

浄化の対象ではなくむしろ手段だった話 『おしん青春編』

第70回前後でおしんは田倉羅紗店に嫁ぐ。番頭格の源右衛門に取り入ろうと彼女は奮闘するが拒まれる。源右衛門は不満である。小作の娘では田倉の家と釣り合わない。 おしんと源右衛門の件の顛末は、水戸黄門の印籠のごとく予め受け手には判然としている。おし…

凡庸なるストレス

『おしん』青春編はつらい。全編つらいのだが青春編のつらさは性質が異なる。おしんの成功に受け手の境遇が浮き彫りにされてつらくなってしまう。 髪結いの下働きを始めたおしんを師匠が贔屓する。おしんの才能を見抜きスピード出世させる。日本髪が廃れよう…

今度は意味がある 『刑事追う!』と『藁の楯』

もともと、扇沢延男脚本を目当てに『刑事追う!』を見始めたのだが、その扇沢脚本の初回が4話目の「陰画」である。前にあらすじを紹介した。次のような陰惨なはなし。 男の妻はふたりの娘を残して夭折していて、その娘のひとりも強姦殺人の被害者となり、こ…

恋愛決戦架空戦記 『大都会 闘いの日々』

『大都会 闘いの日々』は四課物でありながらも、その印象は薄い。各話完結のマル暴話をまとめ、シリーズの一体感を作るのは、渡と篠ヒロコの、公安物のような協力者の工作プロットである。 篠ヒロコはヤクザの情婦で、渡に進んで情報提供する。渡は危険だと…

ワナビ地鎮祭 『桐島、部活やめるってよ』『glee』

スクールカーストは、卒業とともに解消されかねない季節ネタである。階級差が後々の人生にまで波及するような、ある程度の抽象化が行われないと、社会人ユーザーには訴求し難い。スクールカーストに端を発した『桐島』も『glee』も、やがてそれを越えた問題…

風林火山 第28回 亀治郎の顔芸

作った。

風林火山 第26回

あの愛くるしいお屋形様が、暗黒面に墜ちてしまわれた。 亀治郎がやりすぎる程に、つまり情緒の表出が過大になるほどに、かえって情報は水準化しステロ化して内面は見えなくなる。ただ他方で、いったんは閉鎖された内面は、板垣や甘利によってしつこく注釈さ…

『風林火山』――相変わらず亀治郎の顔はえろい

閨で刃物を振るう柴本幸を、最近の亀治郎には珍しく、彼は過激な顔面操作で迎え撃つ。説得の内容そのものは「独りでいることをやめたら、かえって独りになってしまった……」とか何とか、恥ずかしい台詞禁止的な直截なものにすぎないが、これが一杯一杯の歌舞…

「田中と中田」 『サラリーマンNEO』

二つの非常識圏(中山祐一朗&南野陽子)が設置され、常識圏にある田口浩正は彼らに翻弄される。非常識圏は互いに対峙するものの、破綻は田口の奔走でかろうじて回避される。しかし、南野に向けられた中山と田口の密かな共犯関係が露わになると、非常識圏は…

晴信のツンデレ術

亀治郎は自身のツンデレではなくて、相手のツンデレ性を利用して、女心を把握してしまう。 まず、ツンツンする柴本幸へ「おなごにはこれである」とラヴ・レターを送る。と、これが不味い歌で、「何とへたくそな歌ぢゃ」と笑われてしまう。つまり、柴本のツン…

「三人の秘書」, 『サラリーマンNEO』

社長の煩雑な喫茶習慣をめぐり奥田恵梨華らが煩悶するのである。彼女どもを不安にした物語の影は田口浩正だった、と明かされる結末が感涙である。スターシステムを利用した一種の復讐劇と解せるのであろう。 本作を遡ること数分前、田口はいとうあいこに一目…