2020-01-01から1年間の記事一覧

宮崎〇郎を〇ろしてやりたい

『山猫』のドン・ファブリツィオは黒嬬子の堂々たる大ネクタイを自分で巻く。他方、加賀の前田本家には衣装係の使用人がいて、当主は蝶ネクタイを自分で結ばない*1。シチリアのサリーナ家と加賀百万石では経済力が違うのか。それともファブリツィオのダンデ…

『ランボー ラスト・ブラッド』の車中場面

姪を連れて帰る車中のところ。自分は最初姪の視点に同化していて、こんな叔父がいたらどんなに心強いかと羨望した。ところが次の瞬間、ゾっとする。むしろこの叔父にならねばならないのである。 ここでランボーの台詞が始まる。こんな俺でも家族を持てたと死…

「100万ドル債券盗難事件」『名探偵ポワロ』

アガサ・クリスティだから『ポワロ』には変装ネタが多い。不審人物が出たら誰かの変装だろうで片付いてしまう。ミステリーとして見れば心許なくなる話数が多い。しかし『ポワロ』にはミステリーと並走してシリーズ全体を通底するもうひとつのモチーフがある…

自室で核実験をやる話

昨夜、夢の中で自分は小型原爆の核実験を自室で行った。この手の夢は一度見たことがある。夢の中の自分も二度目の実験だと自覚している。 タイマーをセットして自室から出来るだけ遠ざかろうとする間、自分は堪えられない緊張感を覚え、その手の犯罪者の心理…

『彼が二度愛したS』 Deception(2008)

例によって何も知らずに見始めたのである。冒頭、深夜。会計士ユアン・マクレガーが監査先の会議室で独り溜息をつく。 「結婚してえなあ~」 ここで”DECEPTION”がタイトルインして嫌な感じしかしなくなる。またユアンの文系暗黒路線か。文系男が酷い目に遭う…

内面を錯視させる

『狂い咲きサンダーロード』は人の成長を観測する物語としては変則的な作りになっている。正調の成長話であれば受け手に成長の過程を明示するものだろう。『百円の恋』(2014)では安藤サクラのジム通いを受け手は観察することができた。『狂い咲きサンダーロ…

歌舞伎『人情噺文七元結』

この有名な人情噺はハッピーエンドの幸福感を増幅させるために中盤の橋の場面でサスペンス感を設け、敢えて受け手にストレスを与える。しかし予め落語で筋を知って上で歌舞伎の本作を見るとなると、そのサスペンス感は減じると考えるのが普通だろう。わたし…

『Fukushima 50』(2020)

渡辺謙と佐藤浩市の造形については何の問題もない。いつも通りやってもらえば格好はつくだろう。問題は佐野史郎である。彼の造形如何によって物語の政治観が決まってしまうつらさがある。 佐野は当初、ヒール兼コミックリリーフとして振る舞い、世間に流布す…

奉仕の放散と循環 『ルパン三世 カリオストロの城』

トラブルを抱えたヒロインに奉仕する点では、カリオストロのルパンはジェームズ・ボンドに近い。しかしボンドガールへの奉仕には下心がある。カリオストロのルパンにはこれがない。性欲のないボンドがヒロインに奉仕するのだから話は自然気持ち悪くなる。 こ…

阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』

『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』のシーズン1に障害者の犯罪を扱った話数がある。障害者といっても犯人はボーダーに近いために自活している。回りも彼に障害があるとははっきりと認知していない。当人は自尊心から障害を隠そうとする。犯罪は過失に近い。他方…

『判決、ふたつの希望』 L'insulte (2017)

自動車修理工のオッサンが土方の現場監督でパレスチナ難民のオッサンにヘイトをやる。激昂した難民のオッサンは暴力に及び修理工のオッサンに訴えられる。 話の冒頭に修理工のオッサンが客をたしなめる場面がある。非純正のブレーキパッドを使ってトラブった…

三人称に到達する

映画で視点にしたい人物がいれば排他的に彼をフレームの中に入れればいい*1。ダイアローグで台詞を受けている人物のバストになれば、われわれは台詞を受け止める彼の心象に否応なく引き込まれるだろう。では、対峙する二人が平等に画面を分かつとなるとなれ…

『半沢直樹』(2020)

半沢という人は超人あるいはサイコであって、彼固有の属性に由来する悩みがない。たとえ悩みに襲われても状況依存的でその場限りでのものである。彼には負い目がないのだ。普通の人である大和田の方が観察対象としての価値はよほど高いだろう。しかし彼は彼…

コーカサス - アドバンスド大戦略

東部戦線で完勝を続けると、モスクワからウラルを経て最終的にコーカサスへ到達する。これらのマップはいずれも包囲戦がテーマになっていて、内周する陸上部隊と連動して空挺部隊を外周させることになる。現在のコーカサスはホットスポットだ。時事ネタとし…

『灼熱の魂』(2010) Incendies

オイディプスを踏襲するにせよ何らかの変異を施さねば踏襲の意味がない。CASSHERNはハムレットというよりもオイディプスだと思うのだが、当事者の自覚の揺らぎにオリジナリティがある。行為に際しオイディプスもイオカステも互いに面識がない。CASSHERNはそ…

伊藤桂一「大隊長、独断停戦す」『かかる軍人ありき』

近代の心性とは商人のエートスである。 『タンポポ』(1985)に安岡力也がラーメン屋の改装を請け負う場面が出てくる。このとき、店主に好意のある安岡に対し山崎努が注意をする。曰く、金は当人に払わせろと。もし好意から無料でやってしまうと彼らの関係は徒…

『シャッター アイランド』(2010) Shutter Island

何の予備知識もなく見始めたのである。配役もとうぜん知らない。見てみるとレオは亡妻に呪縛されている設定で夜うなされる。そして夢の中に現われるのがミシェル・ウィリアムズの文系殺しのタヌキ顔であり、その何も考えていない配役に爆笑したのだった。な…

「スタイルズ荘の怪事件」『名探偵ポワロ』

ヘイスティングズはダメな大人である。ベルギーでポワロと知り合って感化された彼は復員したら探偵になりたいと目をキラキラさせる。しかし才能がない。ポワロに弟子入りしたものの、貴方の推理にはいつも驚かされると嫌味を言われる始末である。ヘイスティ…

『来る』(2018)

主人公の交代劇がどうにも受容し難い。 妻夫木聡の闇と哀しみはともかくとして、岡田准一と小松菜奈がわからない。この二人は何かにクヨクヨしているのだがその内容に乗れない。岡田は妻に中絶を強いて離婚している。なぜ彼が中絶に強いたのか説明は抽象的で…

徳が敵意を越える

成人した秀頼に家康が初対面する場面が司馬の『豊臣家の人々』にある。秀頼がどんな男に成長したのかドキドキの家康は、駕籠から出てきた長身のイケメンを目の当たりにしてうれしくなってしまう。凛々しさを好む時代の習性が秀頼への敵意に勝ってしまうので…

『七つの会議』(2019)

いつもは大和田と抗争する半沢の傍らでヘラヘラとしていた及川が今作でついに当事者となって香川照之に激詰めされるのである。一種のホラーであり及川も期待通りのストレスフルな反応で沸かせる。が、やはり及川というべきか、この人、半沢とは違った意味で…

ウラル - アドバンスド大戦略

モスクワ4pzにおいてカリーニンからヴォルガを渡河してモスクワを後背から襲うとなると、マップの制約から、史実から見れば不可解な事態が生じてしまう。前に触れたとおり、ゲームでは何の抵抗もなくモスクワ運河東岸に沿って南下できる。モスクワはマップの…

『スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜』(2019)

これもまたつらい話なのである。 大部屋俳優、内野聖陽は殺陣の専門家である。台詞がダメで切られ役ばかりである。彼は大部屋仲間の中村獅童に自らの切られ役人生を自嘲してみせる。 この場面、獅童のイライラした反応が露骨なのだが、それでも作者の意図に…

『ラストレター』(2020)

終わった恋に呪縛される男はいる。聖化した女にいつまでも引きずられる現象は、本作も含めしばしばフィクションの題材になる。が、これの実作を試みると固有の難しさに気づかされる。メソメソする男の叙述はよいとして、問題は女の方である。聖化するほど男…

モスクワ4Pz - アドバンスド大戦略とタイフーン作戦の実際 

モスクワ4pzで迂回や包囲を試みていると、しみじみと戦争をしているような気分になる。わたしは必ずしも熱心な大戦略ファンではないのだが、現代戦の大戦略やファミコンウォーズでは、迂回・包囲がこれほど明瞭には表現されないのではないか。この辺は史実に…

『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(2013)

この話の麻生久美子は決して不快な人物ではないが、時折、その言動に違和感を覚えるのである。 制作会社を訪れた麻生が売れっ子ライターと遭遇する場面がある。 十年前、東中野のシナリオスクールで麻生はそのライターと一緒だったことがある。彼女は「〇〇…

ロバート・B・パーカー『レイチェル・ウォレスを捜せ』

読者がスペンサーシリーズに期待するのは啓発ではなくマチズモの肯定だろう。本作ではフェミニズムの運動家であるレズビアンがスペンサーのマチズモに屈服するのであるが、単なる屈服ではただのポルノになってしまう。いずれにせよポルノには違いがないので…

『散歩する侵略者』(2017)

スコセッシの『沈黙』(2016)は一種のグローバリゼーション映画であろう。その辺の村の爺様が俺よりもよほど流ちょうに英語をしゃべってムカつかせてくれる。村娘の小松菜奈もとうぜんしゃべる。彼女だけは発声が稚拙になってしまうのだが、これがかえって思…

ロードするのかしないのか

『砂と霧の家』(2003)のジェニファー・コネリーは警官と不倫する。アルコール依存症の彼女は警官の銃で自殺を試みるが、トリガーは引けど弾は出ない。警官のベレッタはマニュアルセイフティでロックされている。 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)で…

聖人の外部性 『おしん完結編』

学生の時分に総集編で見た『おしん』の完結編は波乱のない消化試合だった。今回、本編で完結編を見たところ全く印象がかわった。田中好子の紛れなきアイドルドラマであった。完結編の好子は中学のときに思慕をしたクラスメイトBさんに似ている。彼女が画面に…