2017-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ブルース・スターリング 『タクラマカン』

メガゾーンから脱するのではなく、外部者がメガゾーンに包摂されてしまうオチであるならば、ディザスター物の範疇に入ることだろう。ディックの『ユービック』はこの系統にしてはイレギュラーな話で、メガゾーンへの包摂に幾分かの好ましさを付加し、かかる…

『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』

冒頭で信州を旅する寅次郎からとらやに絵葉書が届く。「いいなあ君の兄さんは」とさくらに博が所感を述べる。手前の兄貴でもあるわけだから、この言い方には博らしくない距離感がある。中盤でも、いしだあゆみが上京して寅に付文を渡す場面で、博はメタな視…

クリストファー・プリースト 『夢幻諸島から』

キャラクターの心理過程を叙景によって代替的に表現するだけでは、アイロニーとしての完成度は心許ない。アイロニーにまつわる語り手の自意識の泥沼を克服してそれはようやくアイロニーとなる。アイロニーとは知らぬふりをせねばならず、その叙景は人物の心…

甲斐性のアイロニー 『機動警察パトレイバー2』

後藤隊長といえども警察官であるから、荒川逮捕の際、犯罪教唆のようなことを言ってしまう彼には引っ掛かりを覚える。「どうして柘植の傍にいない」である。言いかえれば、「自分なら柘植の傍にいる」という羨望が含まれるのだが、謀反気への憧憬という青い…

『だれかの木琴』

ホラー映画にしては珍しく、ストーカーの常盤貴子の内面が開示されている。ところが彼女の内語は、修羅場と化する状況とは全く関連のない話題に終始している。内面開示が恐怖を煽る装置になっていて、そこにわれわれは美人の天然というべき恐怖を見出す。か…

ロバート・J・ソウヤー 『フレームシフト』

ソウヤーの作品世界には自意識のない陽性の気質が事欠かない。『スタープレックス』のイルカやイブ族はその最たるものだが、人類しか出てこない『フレームシフト』でも登場人物は基本的に自意識を持たない。ヒロインがテレパスという設定は、その俗謡調に驚…