2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『続・男はつらいよ』

懸想の対象には恋人の影がある。しかし欲望がそれを曲解することで前兆は潜在化する。かくして恋は唐突に失われる。佐藤オリエに懸想した山崎努の動揺に言及があるのは序盤の一場面だけで、あとは後半までこのふたりのラインは潜在化する。その悲恋は寅を唐…

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 『あまたの星、宝冠のごとく』

自分の将来を予見することはできる。しかしそれは憑依のようなもので、我に返ると予見の内容が当人の記憶から消えてしまう(「もどれ、過去へもどれ」)。作中でも言及される通り、『スキャナー・ダークリー』のような肉体の記憶に依存する類型であって、忘…

『タクシー運転手 約束は海を越えて』

悲酸を盛り上げるための準備動作としてソン・ガンホのテンションを不自然にする本作の実利的態度は、タクシーのカーチェイスで極限に達してお笑いに接近する。公安のコワいオッサンの叙述も純ジャンルムービーそのものの通俗さで、作品に対してとるべき態度…

虚構に殉じる

Er ist wieder da は史実に準拠しない形でヒトラーの造形を設定している。ガレアッツォ・チャーノやゲッベルスの日記、あるいはヨアヒム・フェストの評伝で知ることができる史実のヒトラーは多動性障害の典型的な症例を呈していて、その印象は奇人というほか…