2015-01-01から1年間の記事一覧

小林桂樹内閣のいちばん長い日 『ゴジラ'84』

ゴジラ'84がすきだ。幼少のころはゲイブンシャのゴジラ大百科をボロボロになるまで愛読したものだった。後年になって、このゴジラがひどく評判の悪いことを知った。'84はリアルタイムで初めて観たゴジラである。わたしはこのゴジラを思い出補正で随分と美化…

慈愛が恋の排他性と対立する 『アルドノア・ゼロ』『愛と誠』

アセイラムの慈愛体質は性愛を理解しない。スレインを救ってくれと彼女は伊奈帆に乞うが、男視点からみればこれはひどい話で、実際のところ、スレインを救えるのは手前しかいない。 性愛を理解しないから、好意の顕現に何の躊躇もない。童貞はこれを誤解して…

心情を焦点化する

会話の場面においては、台詞が流れる間、誰の顔を映しておくのか常に問題になる。話しているキャラを画面に出すのか。会話を受けている相手の顔を出すのか。この配分で、どちらの心情を焦点化するか、あるいは突き放すか、コントロールすることができる。 マ…

不能の唄 『ザ・マスター』

ホアキンを不能にしてしまった事件を追体験することはむつかしい。彼がこむった戦禍を受け手は経験しえない。話はホアキンの主観から始まってはいるが、感傷の追体験ができない以上、外からの観察によって感傷の参与を試みるしかない。シーモアの役割はホア…

煉獄を経て 『秒速5センチメートル』

いまだ恋愛が成就していない懸想の状態が、生活に支障を及ぼすまでに重篤化するのであれば、もはや恥も外聞もない。求愛を試みて、かかる状態を終わらせねば、前に進めなくなる。その際、最優先されるのは終わらせることであって、成就の可否は二の次になる…

構成された修羅場を超えて 『セッション』

教官という現象の効果は、教官から与えられた修羅場の被験者がそれを自覚して時点で、霧散することだろう。あくまで修羅場は、本当に修羅場だと認知してもらわねば、教育効果に欠ける。それが、教官によって意図的に構成された現象だと悟られたら、修羅場が…

愚者と聖者が終末で 『キャビン』『ハゲタカ』『回路』

映画ハゲタカは、玉山鉄二の人生を俯瞰する物語である。TOBや金融危機のエピソードは、結果的に、われわれの目を欺く誤誘導として働いている。人生を俯瞰したという感覚は、玉山が遭難した時点では、まだ構成されない。 映画の冒頭は、中国の田舎道(ロケ地…

母性の戦争 『ソロモンの偽証』

閉廷後、大出俊次が校舎を後にすると、母親がそこに待っていて、彼を抱擁する。わたしには、母親のこの感覚が解りづらい。 法廷では、大出が級友に行った横虐の数々がつまびらかになっている。その息子に対して、横虐の被害者の衆目があるやもしれぬ環境で、…

構成への意欲が失われ、詩が誕生する 『アメリカン・スナイパー』

ブラッドリー・クーパーが戦死した僚友の葬儀に参列する場面がある。彼の後背には、儀仗隊が立て銃で整列している。母親の弔辞が終わるや、彼らは執銃動作に入るのだが、ここの場面構成が、わたしには気に食わない。かかる場面では、執銃動作に応じてカット…

マンガ的想像力の臨界 『永遠の0』

山崎貴のマンガ的想像力は、しばしば、キャラクターの下品な挙措や極端な紋切り型の造形として結実してきた。『SPACE BATTLESHIP ヤマト』では、佐渡酒造のミーに際したキムタクに、「ねこ? ねこ!」としつこく咆哮させ、マンガ的造作を存分に発露せしめる…

メタボであること 『誰よりも狙われた男』

特殊な環境に放り込まれた人物が、事件に対処するなかで、人生の課題と向き合うことになる。物語の目的はこれを観察することにある。したがって、語り手は、キャラクターを巻き込む事件とは別個に、その人物が抱える人生の課題を用意せねばならない。かつ、…

老人性涙腺肥大 林達夫・久野収『思想のドラマトゥルギー』

先日、「君は感動しないだろう?」と人に言われた。これは、わたしの冷淡さを当てこすったものだったが、実のところ、わたしは毎日泣き暮らしている。 これに関連して、最近、よく思い出すのが、『元気が出るテレビ』の松方弘樹である。彼は、他愛もない人情…

無題

失恋に対する教訓やオリエンテーションを芸術作品に求めるのはたやすい。失恋が創作の動機となるからだ。ところが、承認欲求の充足に挫折したとき、芸術はガイドとして役に立たなくなる。 チェーホフの『わびしい話』に、才能がなく女優になれなかったヒロイ…

善意を表現する構造 グレッグ・イーガン『白熱光』

本作は、明らかに、フォワードの『竜の卵』と政治的課題を共有している。また、語り手には、そのように想定してもらいたい動機がある。実のところ、叙述トリックで課題が解決される点で、本作は『星を継ぐもの』の影響下にあるのだが、トリックである以上、…

庶民賛歌を科学する 『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』『模倣犯』

『寅次郎恋やつれ』のラストは少々気まずい。文豪の宮口精二が、とらや住人と邂逅しているのだが、両者ともまるで別の世界に住んでいるため、宮口の娘である歌子を共通の話題にしながら、ややぎこちなく対話を続けるしかない。ここにタコ社長という、更なる…

女の原風景 『言の葉の庭』

わたしが『言の葉の庭』で強烈な違和感を覚えるのは、ドコモタワーを俯瞰する超地上的なカットである。空撮で大写しになったドコモタワーのいったい何を以て、キャラの感情の振幅を表現しようとしているのか、この関連がよくわからないのである。同じ違和感…

無題

ラジオを流していると、アニメ声が聞えてくる。曲名を求めて目を上げると、Silent Siren - 女子高戦争とある。わたしは頭を抱える。アニメ声だったら何だってよいのだ。わたしの絶望をよそに、曲はサビに入る。 「あのイケメン講師を落としたい♪」 わたしは…

無題

先日、メルヴィル『サムライ』のサントラ盤を購入した。ついでに、その本編をいつ視聴したのか調べたところ、結果は意外だった。 オフラインで詳細な日記をわたしが記すようになったのは、2004年からである。それ以前の記録は、昔のブログに記された断片的な…