仮文芸

現代邦画とSFの感想

阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』

 『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』のシーズン1に障害者の犯罪を扱った話数がある。障害者といっても犯人はボーダーに近いために自活している。回りも彼に障害があるとははっきりと認知していない。当人は自尊心から障害を隠そうとする。犯罪は過失に近い。他方で、捜査陣は責任能力ありと男を追い詰め、警察に憎悪を犯人に好意を誘導する趣向となっている。が、これが罠なのである。結末で行われるのはSVUらしい相対化で、精神鑑定にかけるとIQ68と微妙な結果ながら晴れて障害を認定され男は免責される。ハッピーエンドかと安堵したところで施設に入れられる男の場面が始まる。アマデウス癲狂院のような有様を目の当たりにした男がドン引いたところで幕切れである。
 

ちーちゃんはちょっと足りない (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ もっと!) 『ちーちゃんはちょっと足りない』もタイトルからわかるように趣向は同じだ。周囲はヒロインを障害者として扱わない。あるいは扱いたくない。ヒロインの挙措は障害者のそれではないもののボーダー気味を思わせるものもあって、そのさじ加減があくまで彼女を健常としたい周囲の尽力を切実なものにしている。ゆえに、彼女が窃盗をやってしまうと、むしろ周囲の被るダメージを慮って胃が痛くなるのだが、喚起される感情の流れがSVUとは逆である。犯行がバレると彼女には罪の自覚がないと判明して、逆にこちらの気持ちが楽になってしまうのだ。これはもはや福祉の対象であり、それをやらない周りはネグレクトではないかと。
 現実にこの考えが妥当なのかわからないが、物語はヒロインにボーダーを越える言動を行わせることで事態をテクニカルな問題だと思わせてしまうのである。テクニカルならば解決策はあり得るから受け手は楽になってしまうのだ。