2025-01-01から1年間の記事一覧
数学的諸構造のほうが人間のうちで自分自身を思考するのである(ヘーゲル) 真理とはこれ以外の仕方ではありえないものである。 ほかにあり様がないために、あらゆる状況に妥当する。 あらゆる状況に対応する真理は、あらゆる事態を凝縮する。 多様な様態を…
文脈から浮いたトロッコ問題が感情をあおる手段におちている。犠牲者が子どもではなく老人だと知って安堵した自分に篤郎は動揺した。功利主義に拒絶感がなければ彼の安堵は正当に見えるから、その動揺がわかりづらい。転轍機を動すはめになった人のプレッシ…
少なくとも『ペンギンズ・メモリー 幸福物語』(1985)とは毛色が異なる。比較すべきなのは『対馬丸—さようなら沖繩—』(1982)の方だろう。ペリリューも対馬丸も危機のピークアウトは序盤にやってきて後は長い消化試合である。 『対馬丸』を生んだのは、サザエ…
男の思慕は女の幻影を見るほど膨れ上がっている。この状態で女との文通が途絶えるのはいかにも不自然だ。不可解の起源はアニメ版の秒速がおこなった隠ぺい工作にある。コスモナウトのタカキくんはすでに失恋しているのだが、失恋のタイミングが明示されず、…
宇宙から近代社会が襲来し地上の奴隷社会は今や解体されつつある。近代に敗北した伝統社会の男たちは去勢のストレスにさいなまれる。現地民の自立を目指した活動家の老人は内ゲバに敗れ隠遁生活を送っている。植民地で叛乱奴隷と戦った軍人は敗残兵として本…
戦前の日本は今日の途上国に匹敵する格差社会であった。ジニ係数は上昇をつづけ、1905年の0.473から23年の0.529に上昇し、37年には0.573に達した。 格差の要因は農業の不振にある。非農家の1人当たり実質所得は1910年代以降着実に上昇した。農家の所得は戦前…
三宅唱の作品宇宙では女に壊された宇宙は予後不良の男たちをいけにえにして女もろとも快方に向かう。『夜明けのすべて』の冒頭で人々を混乱に陥れたのは、みずからの症状を説明する萌音の、世界ネコ歩きそのままの声色であった。猫が猫を説明するような入れ…
元カノの名をヒロインにつける露出癖は理解できないにしても、秒速を論じるにあたってはやはり初期深海の詩神たる篠原美香の影響を考えないわけにはいかないのである。新海誠の個人史を参照すれば、秒速の謎多き展開に説明がつくのである。その謎とは明里へ…
男の恋の物語がしかるべき恋愛劇のフォーマットに乗ってこない。女の何が彼を惹きつけたのか、記号が羅列されるばかりで要領を得ない。女は痴女のように媚態を繰り出すばかりである。学校・お祭り・花火とギャルゲのような日常イベントは形式に徹して、女の…
記憶の改ざんがもたらすのは夢見るようなアナクロニズム。オムレツに新時代の記号を見る友和は、白菜が登場する時代劇のように時の前後関係を見失っている。アナクロであるから、煮物でギュウギュウになった弁当箱にオムレツが突っ込まれてしまうと、違和感…
過去の解釈をめぐり男女の間でずれが生じている。女がとうに終わらせた恋が男には今そこにある危機であり続けた。そのすれ違いこそ秒速の妙なのだが、この設定は後続作に課題も残した。原作では明里の真意を不明瞭にしたため、男を振った彼女が残虐なヒロイ…
近代エジプトが歴史改編の題材になりうるのは、かつて産業化を試み失敗したくやしみの歴史があるからだ。かの地では奴隷を工場で働かせたため、工場製品を消費する中間層が形成されず産業化は頓挫したのだった。 近代化や産業化を試みる歴史改編に問われるの…
革命を人為的な自作農の創設による中間層のアンロックと定義すれば、日本列島は過去に2度、革命を目撃している。太閤検地と農地解放である。自作農の創設には地主に集積した土地の再配分をともなうため、貴族や領主層の抵抗を排除する力がなければ実現はおぼ…
景物の情報量には一般文芸のようなコストがかかっている。社会経済の設定がその精密度に追いつきそうもない。現実の社会経済を参照して景物を克明にできる社会時評の利点はときに仇となる。ヒロインの収入は母の介護料に大半が消え、スキマバイトをかけ持ち…
近世におけるイギリスの人口動態の特徴は、経済成長に比べ人口増が抑制的だった点にある。この間、イギリス国民の栄養状態は改善していったのだが、19世紀に入りふたたび人口が増加に転じると食料事情は悪化した。経済成長は栄養や健康の改善に貢献できなく…
このカップルの顛末はもはや動かしがたいであろう。たとえ一時的によりが戻ったとしても、二宮の稼ぎでは小松をつなぎ留められそうもない。結果が同じであれば脱出の試みに意味がなくなる。 映画の能天気なルッキズムは出てくる女たちをことごとくキャピキャ…
タカキくんと明里はなぜ疎遠になったのか。公式解釈では岩舟と種子島の距離に想いが阻まれたとされているが、これはタカキくんの異常心理を説明しきれていない。心が離れたのならば明里の幻想を見るまでにガンギマる訳がなく、花苗にもあれほど不感症にはな…
とにかく介護問題に属人性を持ち込みたくない。それをやれば被介護者の覚悟や死生観が問われかねない。それを危惧するから病人たちはやたらとケアラーに気をつかう。しかし、猗窩座の介護観には矛盾がある。武力に問題帰結の糸口を見出すアイデアが後に淘汰…
中長期的にみれば事件が起こらずともすでにワイナリーの運命は決していたと思われる。弟が何のアクションを起こさずとも、男の道楽はやがてワイナリーを人手に渡したであろう。弟はそれを見越して転売を考えたのかもしれない。短期的にみてもワイナリーの予…
欧州を議会の起源にしたのは、諸国を不断の緊張関係に置いた地理的環境である。議会とは課税承認の場であり、武力衝突をともなう度重なる摩擦によって大きな財政的努力を強いられた国々は、負担能力のある貴族たちの好意を当てにするほかなかった。君主は租…
男が直面しているのはやくざもののテンプレであり、スリラとなっているのは足を洗えるかどうかその可否である。彼は寄る年波に敗北しつつある。男の身を案じる恋人は足を洗うよう堅気の仕事を斡旋してくる。この状況設定のもとで男に警護の仕事が入り、マル…
黒死病以前におけるイギリスの人口動態はマルサスの想定にかなった挙動をしていた。マルサスの世界観では一定の土地が養いうる人口には限界があり、土地が増えない限り人口は頭打ちになる。イギリスの人口は黒死病以前にすでに収容限界に達していたと考えら…
タカキくんと明里の関係は少なくとも前者の視点にとっては地理的な隔たりによって何となく疎遠になったのであって、明確な破局に至ったのではない。創作の見地からいっても曖昧なままでなくては困る。明里の方はもう終わらせたつもりでいて、その違いが男に…
任務にしくじったヒロインは職業人としての自信を失っている。彼女の課題の根底にはパターナルな母の抑圧がある。母は常に娘の資質を疑い、今やその疑念は実証されてしまった。ヒロインの課題とその解決法はかくして定義される。母の抑圧を克服すればヒロイ…
アイドルを定義できなければ、アイドルにはなり得ない。ではアイドルとは何か。アイドルになるための要件とは何か。本作が援用するのはプラトンの軽侮的な役者観である。何者にもなれる役者は何の専門家でもない。ダニエル・デイ=ルイスがオフで職人仕事に没…
医者にお使いイベントをもたらすのは、行方不明になった認知症の患者である。物語のヴィランとなるのは、このミッションを妨害する人的要因である。癇癪持ちの娘が往診に出ようとする母に同行を強要する。 運送屋にとってもヴィランは似たように立ち現れる。…
才能の起源は究極的には人間性に帰着した。ところが、成長の物証となるべき不幸の発起にはズレがある。 男が直面した人間性の課題は気づきがあれば一夜漬け程度で克服され、再挑戦の場は偶然の作用によって早々にやってくる。成長が物証を欠いたまま達成され…
キャラクターを区分するのは文化相対の作法であり、相対性を競う争いが暗に作者をも巻き込んで進行している。文化相対の作法に準拠できたキャラへ読者の好意が誘導される。この原則は冒頭から苛烈に適用される。交易商に宣教師が呼びかける場面だ。 「わが子…
『残菊物語』の奇怪な踏襲である。菊之助はドサ回りで成長して帰ってきた。ドサ帰りの横浜流星は凡庸なままで物語の作法を裏切る。残菊とは逆にドサ回りが明らかにするのは情実の根深さである。 吉沢亮のドサ回りにはさらに意味がない。彼の芸は完成済みでド…
古代人は存在と行為が互換する機構を想像してきた。その宇宙では問題自体が答えをすでに包含し、災厄に際して何が倫理的に正しいふるまいか人間はいちいち狼狽するひつようがない。問題自体が答えをともなうために、問題が起こっても自動的に解決されてしま…