2020-01-01から1年間の記事一覧
伊丹十三の後期三部作『ミンボー』『スーパー』『マルタイ』が試みたのは近代の捕捉であった。これらの物語は近代の宿った心の状態を勇気と定義する。ヤクザとカルトという非近代の襲来を受けた経理マンと女優は、自分の奥底に眠る勇気を発見したのだった。 …
『ザ・ウォール』(2017)は密室劇に近い。イラクの砂漠で米軍の狙撃手(アーロン・テイラー=ジョンソン)がイラク人の狙撃手と壁を挟んで対峙する。無線を通じて相手は挑発を繰り返す。米国製作なので話はアーロンの視点である。しかし、アメリカとイラクと…
今年の初め、ローマが現代まで存続する歴史改変小説が一部界隈で話題となった。舞台は21世紀初頭でローマと日本と中華が地球を三分している。ローマと日本は300年に及ぶ戦争の末に1945年以降、冷戦状態にある。本文には言及がないが核兵器が登場したのだろう…
これほど捻りのない邪念も珍しい。下宿屋に大家の孫娘が越してくる。それが宮﨑あおいなのである。院卒アスペルガー松田龍平は逆上せあがって告る。ふたりは入籍。完、である。これは何なのか戸惑うほかはないが、しかしというか、やはりというか、通底に不…
全能なる神は全てを予知する。これが人間の自由意志と相容れない。先日、トマス・アクィナスを読んだところ、スコラ学を悩ますこの話題に際し、彼は昔のギャルゲ論壇のようなことを言っていた。曰く、自由意志つまり選択とは時間に付随する現象である。とこ…
わざわざ決起の前日に危険を冒して南雲隊長に会ってしまう。柘植行人という人は、相当、性欲が強いのでないか。わたしとしては、性欲で大義を危うくする柘植に憤りを覚える。貴様は「隊長ぉぉぉ」の叫びを忘れたというのか。 が、柘植には柘植の理屈があるよ…
1 ブルージュのその地下部屋は一泊が100フランにも満たなかった。 階段を下りて扉を開くと、幅2メートルの部屋に机と衣装箪笥とベッドが詰め込まれている。入口から見て右手には洗面台。そこから壁に沿ってアームチェアと机と箪笥が並んでいる。シミの付いた…
0 国境の丘に残置された童貞特殊部隊は、来寇した赤軍義勇兵に重囲され全滅の秋を迎えようとしていた。数日に渡る殺し合いの間、数百トンの鉄塊に耐えてきた掩蓋陣地が地鳴とともに陥没したのだった。陣地直下に掘削された坑道が爆破されたのである。 爆轟の…
単身者にとっては恐怖映画であろう。四十路半ばの単身オッサン(エディ・マーサン)は民生委員である。彼は日々、孤独死の後始末をやっている。このままいけば自分も彼らの仲間入りである。 受け手が単身者ならば一刻も早くこの恐怖から逃れたいはずだ。映画…
『沈黙の艦隊』にトロッコ問題を扱った話数がある。党首討論でアンカーが党首たちにトロッコ問題を提示する。 10名を乗せた救命いかだが漂流中である。 そこに1名の伝染病患者が出る。致死性である。 あなたならどうすると問われるのである。 不幸の総和を最…
幼少のころから作品自体の存在は知っていた。しかし、タイトルから滲み出るB級臭にうんざりして、実際に見たのは学生になって2年目のことで、荻窪駅前のTSUTAYAで何の期待もせずレンタルしたのだった。それで最初の難関、浜松駅の入れ替えで「すまなんだ」と…
本作については連載中は熱心な読者ではなく、たまにスーパージャンプを立ち読みする程度だった。とうぜん筋は追えていないのだが、煽情的な内容が気になって、いつかまとめ読みをと思いつつもこれまで放置してきた。この正月、それをようやく果たせた。 シェ…
佐賀編の顛末は最初から予想がついてしまう。どんなにいじめが激しくとも、どうせ清は善人に変貌して和解するのである。 この予断には伊東四朗の存在が大きい。 中ボスとしておしんを苛め抜てきた伊東は、死に際になると突如善人と化しておしんと和解したの…
SVL12000語から未知の単語を拾ってAnkiにぶち込んだのは、6年ほど前のことだ。ついでに、SVLとは重複しない頻出単語リスト(3000語)からも同様のぶち込みを行った。かくして、わたしの語彙力は15000語となった。 15000語というのはネイティヴでいえば小学生…
容態のおもわしくない妻は、もう長い間の病床生活の慣わしから、澄みきった世界のなかに呼吸づくことも身につているようだった。 『美しき死の岸に』 昔書いたことだが、原民喜の印象は最初はすこぶる悪かった。死に瀕する妻貞恵を美化する厚顔に怖気を震っ…
『帝一の國』(2017)の感化はあると思う。菅田将暉の登板がそもそも帝一を踏まえたものだろう。『帝一の國』には色々と感ずることがあったが、その永井聡演出はやはり一定の影響を各方面に与えたようである。 話は別にしても、美術を見てるだけで満足する類の…
イカ臭い。文体も話もイカ臭い。わたしも人のことは言えんが、しかし、つらい。 文革で人類不信になった天体物理学者がファーストコンタクトに成功して地球を売るのである。 彼女はエコなインテリを糾合。プロエイリアンのニューエイジ教団を結成するのであ…
これもまた作者の本音を偽る類の話である。あの冒頭の、担任が住田を囃し立てる場面だが、「みんな特別、ひとつだけの花、すみだがんばれ」云々とつらい。これは古谷実ではなく園子温の台詞だろう(原作未読)。いずれにしても、作者の本音だとは思われない…
1 ミドリは少年のような女だった。 いや、少年という類型に入れ込むには少し含みがあるというか、あるいは陰湿な少年らしさというか、これでは矛盾めく聞こえるのだが。 豪奢な口をしていた。 不機嫌な顔をしている。 考え事をしながら流し目をやる癖があっ…
賭け金を上げ過ぎた話であった。賭け金が上がる、つまり謎が深まればそれだけ受け手は惹かれる。しかし深まるだけ謎の解明に対する受け手の期待が膨らみ、風呂敷たたみのハードルが上がってしまう。 男はベドウィン系のイスラエル人である。医師として社会的…
必要なのは悩みと事件である。登場人物には彼固有の性質に由来する悩みがある。他方で、その悩みを顕在化すべく事件が彼を襲う。キャラクターは災難に対応する過程で人生の課題と向き合う。その際、キャラの課題はどう解決されるのか、物語の職人の技量が試…
レティシアはアホの子である。ロベール・アンリコの演出力は初出の彼女を一目見せただけで受け手にこれを把握させる。話はスクラップ置き場で物色をしている彼女から始まるが、半開きの締まりなき口元を眺めているだけで、ああ、アホの子だとしみじみと伝わ…
困ったことに、ほぼ全編まことにおもしろくないのである。なぜその行為が必要なのか、明確にされないまま話だけは先に進んでしまう。しかし理由があるのだ。おもしろくしてはまずい事情がある。 原案である Heart and Souls ('93) と比較してみよう。 事故死…