劉慈欣 『三体』

三体 イカ臭い。文体も話もイカ臭い。わたしも人のことは言えんが、しかし、つらい。
 文革で人類不信になった天体物理学者がファーストコンタクトに成功して地球を売るのである。
 彼女はエコなインテリを糾合。プロエイリアンのニューエイジ教団を結成するのである。
 このあらすじだけでつらいが、殊にニューエイジ教団まわりがつらい。
 教団の集会に武警が突入すると金属球を掲げた”美少女”(本当にそう書いてある)が前に出て「これは核爆弾です」とやる。
 太古のラノベである。作者は日本語圏フィクションを読んでる人だから、これはジュピター教団である。つまり、つらい。というより、あまりにもマンガであるから、とうぜん何か裏があると思い込まされる。
 事実上の主役である公安のオッサンが、オカルトには裏があるという。現場主義者のオッサンは荒唐無稽を信じない。宇宙人は名目であり、教団には別の企みがあると彼は考える。
 そのつもりで読み進めていくと、本当に宇宙人がいて地球に進撃中と来る。
 オッサンは吃驚して、ワシも吃驚したのである。


 キング・オブ・モンスターズにも似た戸惑いを覚えた。
 前作を飛ばしていきなりこれを見たのだが、秘密機関モナークと聞いただけで何たるマンガかと萎えた。ところが、このマンガは更なるマンガなる事態によって相対化されてしまう。
 マンガやオカルトを憎む気持ちが作者に利用されるといえばよいか。
 ヴェラ・ファーミガ一派がモナークというマンガ組織の上を行く。チャン・ツィイーがヴェラを「オカルト野郎」と罵りキャットファイトを始めれば、オカルトを憎む客の気持ちがヴェラへの憎しみに援用される。
 『三体』にも同じノリがある。
 荒唐無稽への憎悪が荒唐無稽なジュピター教団への憎悪へと援用されると、非インテリで現場主義の公安オッサンを応援したくなる。それにしたがい、人類の意気地という宇宙侵略者物伝統の高揚がでてくる。
 この辺には『天気の子』のようなアンチリベラルの含みもあるんじゃないか。