カレー考

調理に際し重さで具材の分量を割り出すと味が決まりだすので計量に病みつきになる。

自炊を始めた当初はハカリを持たなかった。味噌汁のみそは200mlにつき大さじ一杯であり、重さを知らなくても作れる。ダシはそうもいかない。100mlにつき3gの煮干しでダシができ上る。この3gをハカリなしで割り出したい。

パッケージされた煮干しの内容量は包装に記載されている。30gの煮干しが必要としてパッケージの内容量が300gならば10分割でおおよそ30gに到達するはずだ。10分割した煮干しの平均個数を調べ煮干しの量をフィックスした。1200mlの場合は30匹である。重さではなく個数で量を決めたのだった。

後にハカリを購入した際には、みそを毎回大さじでほじくり返すのは煩雑だったので重さで量を決めることにした。大さじで計量して味噌を取り出しその重さをはかって分量をフィックスした。煮干しの量は従来通り個数基準のままである。このやり方で歳月が過ぎた。


煮物がまずい。うまくいかない。煮物の不出来は長年の課題となっていた。煮物は椎茸からダシを取るのが通例である。椎茸を好まない私は代わりに昆布を用いてきた。不出来の原因はそこにあるのだが、椎茸が苦手なために原因追及に際してはダシから目をそらし続けた。これを克服して規定量の椎茸でダシを取ると抽出された濃度に驚いた。完成した煮物はようやく食えるレベルに達したものだった。昆布がダメというよりも端的に量が過小だったのである。

ダシの濃度を軽視したのは『美味しんぼ』第1巻の「ダシの秘密」の感化がある。昆布をお湯にくぐらせてダシを取るアレである。


感化を受けるべき話は第2巻の「そばツユの深味」の方であった。屋台蕎麦の花川勇作が雷門「藪」のダシに驚愕した話である。


味噌汁のダシも再検討した。1200mlに煮干し30匹を投入すると教科書想定濃度の8~9割になると判明した。問題はみその方だった。大さじ一杯のみそは17gとされる。1200mlならば102gである。計量の結果、従来の投入量は過大だったと明らかになった。ダシ不足をみその量でカバーしていた節がある。

これまでの変則的な方法を止め、100mlにつき3gの煮干しと200mlにつき17gのみそで味噌汁を作成した。世人はこの味を味噌汁と呼んでいたのかと感得した。

こうして人は計量に取りつかれていくのだが、物には限度もある。

カレーがうまくいかない。水っぽく出来上がってしまう。

南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレーレシピによれば玉ねぎを30秒間炒めた後に弱火で蓋をして5分放置する。スパイスとトマト煮水煮を加え30秒炒めた後に水100mlと肉を投じ10分間弱火で煮込めば完成する。味を見ると水100mlが要らない気がする。

巻末のインドカレー設計図には「加えた水は煮込み中に蒸発する」とある。-100gになるまで煮込めばレシピの想定する味になるはずだ。本はフライパンごと計量して-100gを求めるよう薦めている。これは現実的な方法ではないだろう。引き算するよりも少しづつ加水して好みの濃度に持っていく方がわかりやすい。しかしこの方法には課題がある。水100mlは具材を煮込むためにある。煮込みの工程を省けば具材に硬さが残ってしまう。

具材を個別に炒めて好みの硬さに持っていくことにした。玉ねぎを15分間炒めて鍋に移す。肉も別に炒め鍋に投じる。トマトの水煮とスパイスを絡め火にかけながら加水して好みの味に持っていく。これで食えるカレーになった。