2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧
一見には琥珀さんがわからないのである。シリーズからは独立した、自己完結した物語として本作を観察してしまうと、三十半ばになっても族を引退しないヒゲのオッサンが精神的支柱を失ってオロオロしている何とも貫録のない話になってしまう。琥珀さんの慕わ…
男も女も互いの面識を失っている。にもかかわらず、愛の実効が二人の間で再現されてしまう。その際、恋が宿命であったことの強度は記憶喪失の度合いの関数である。記憶がないほど宿命的になる。 『明日の記憶』では、女についての記憶を失っている男は改めて…
精神病質者の視点がたびたび挿入される。理解不能な人物の主観が入るわけだから、男の病質性はおのずと低減される。地下鉄の場面で明示されるように、男の挙動が精神病質であるとはっきりと定義したくない意図がある。彼がそれであるのかどうか、その可否の…
劇中の人物が自分の正体を知る叙述文学の公式は、その冒頭において、自分が何者か知らないがゆえに当該のキャラクターから機能的色彩が欠落することがある。それは受け手のいら立ちを誘いかねない。 『叛逆航路』はバディ物であるが、キャラクターの無能さが…