2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

小説『永遠のミドリ』

1 ミドリは少年のような女だった。 いや、少年という類型に入れ込むには少し含みがあるというか、あるいは陰湿な少年らしさというか、これでは矛盾めく聞こえるのだが。 豪奢な口をしていた。 不機嫌な顔をしている。 考え事をしながら流し目をやる癖があっ…

ヤスミナ・カドラ 『テロル』

賭け金を上げ過ぎた話であった。賭け金が上がる、つまり謎が深まればそれだけ受け手は惹かれる。しかし深まるだけ謎の解明に対する受け手の期待が膨らみ、風呂敷たたみのハードルが上がってしまう。 男はベドウィン系のイスラエル人である。医師として社会的…

文明架空戦記 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

必要なのは悩みと事件である。登場人物には彼固有の性質に由来する悩みがある。他方で、その悩みを顕在化すべく事件が彼を襲う。キャラクターは災難に対応する過程で人生の課題と向き合う。その際、キャラの課題はどう解決されるのか、物語の職人の技量が試…

レティシアがかわいい。あるいはなぜかボーイズラヴ 『冒険者たち』

レティシアはアホの子である。ロベール・アンリコの演出力は初出の彼女を一目見せただけで受け手にこれを把握させる。話はスクラップ置き場で物色をしている彼女から始まるが、半開きの締まりなき口元を眺めているだけで、ああ、アホの子だとしみじみと伝わ…

『ハロー!?ゴースト』(2010) Hello Ghost

困ったことに、ほぼ全編まことにおもしろくないのである。なぜその行為が必要なのか、明確にされないまま話だけは先に進んでしまう。しかし理由があるのだ。おもしろくしてはまずい事情がある。 原案である Heart and Souls ('93) と比較してみよう。 事故死…