『ハゲタカ』 第三回&第四回

 殺された身内を感化のリソースとして活用することはありだろう。ただ、それを殺した当事者へ志向させるとなると、影響力は半減する恐れがある。殺した方は殺した方で、自分は人を殺してしまった、という負い目があり、それがまた影響力のリソースとして働いているからだ。したがって、栗山千明サディズムは、柴田や大森を打ちすえるようでいて、その実、あまり効果が期待できない。あるいは、火に油を注いでる可能性もある。栗山によって負い目が刺戟されるほどに、彼らの影響力のリソースもまた増強されるはずだ。とはいっても、反対に柴田の感化が栗山を目指しても、それはまた中和作用になるだけなので、かかる影響力はより外縁を目指さねばならぬ。


 思えば、第三回の若社長、小林正寛は可哀想な人で、負い目/トラウマ/PTSDを持たぬがゆえに無防備であり、栗山×柴田&大森によるSMプレイの波及的な犠牲になってしまう。入札の神経症的な空気に耐えきれず「ふおぉぉっ」とか「ひぃぃっ」と奇声を漏らすのである。
 対して菅原文太は、自身が死にかかってるという最強のリソースで無敵なのだが、調子に乗って、かかる感化力で総会の運営を乗り切ろうとするから、たちが悪い。抽象的な心理の競合劇が、即物的な経済劇に誤適用された感がある。もっとも、語り手は自覚しているようで、松田龍平をして茶番劇と評せしめることで配慮が行われてはいる。