ヘンリー・カットナー『ロボットには尻尾がない』

ロボットには尻尾がない 〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集 (竹書房文庫 か 18-1)発明家を振り回す無意識には二つの作用がある。


発明は常に無意識のなせる業である。気づいたら用途不詳のガジェットが目前に鎮座している。使い道を探るミステリーは自分の無意識と出会う話でもある。


無意識は発明者個人だけではなく、誤配の形で社会にも作用を及ぼす。意図せぬガジェットの作用が期待されてしまう矛盾がある。


いかなる物も収納するロッカーがある。収納物は近未来に転送され現在から消えてしまう。男が収納物を取り出すべくロッカーを手探りすると、掌は未来の自分に到達し当人に致命的な作用を及ぼしてしまう。無意識が誤配から再帰へと形を変えながら外化される。


他人の才能を刷り込む装置がある。才能を得たらそれを使わずにはいられなくなる設定がこれに付随する。


海外逃亡を企てた男は大西洋上で機上から転落する不可解な死を遂げる。水桶めがけてダイブする曲芸師の能力を刷り込まれた男は、海上に達するとそれを使わずにはいられなくなる。


ロッカーも能力転写も誤配とはいえ結果的にヴィラン退治に使われる。問われるのは無意識の飼い慣らしである。誤配でなければ効果がない。意図がバレたら罠にはかからない。意図を完全に隠すには意図をそもそも持たねばいい。


泥酔から覚めると例によって謎のガジェットが出来上がっている。装置の仕様書はロボットの無意識にアップされたという。他者の無意識の形で事物化された無意識は操作ができる。無意識の探求は弁論術として今や外化している。反抗的なロボをどうやって言いくるめ、自己催眠をかけさせ無意識を露呈させるか。そこで展開された論法は少々強引だと思う。


三人の依頼者から催促がある。無意識の製造した装置はひとつだけ。このエピソードでは筋の経済性が誤配によって達成されている。単一のガジェットが並走する三つの筋を片付けてしまう。多機能の経済的な表現を追求すれば誤配に行きつく。ある作用から派生する予期せぬ効果が予期せぬ人の要求を満たしてしまう。開陳されるのは、外部性の意図せぬ体系によって皆が幸福を分かち合ってしまう社会観である。