チャイナ・ミエヴィル 『都市と都市』

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
 事件とキャラクターの並行する叙述が舞台設定の不自然さを補てんできている。まずミステリーの情報開示が舞台の不自然な凸凹を利用して情報を流出させることで、不自然さを補てんする。キャラクター叙述の方はバディ物に準拠していて、これが三つの階梯を踏む。バディが三人出てくる。最初は後輩女子物であり、弟子物である。次がうれしはずかし異文化交流相棒物である。最終階梯に至ると師匠物になる。今度は主人公男が弟子になる。主人公が当事者になるにつれて立場が弱くなる。あるいは、未知の舞台に彼が段階的に投入されるゆえに、相棒のガイド性が高まってくる。
 ミステリーがそうであったように、キャラクターの感傷的な叙述が不自然な世界観を利用すると、かかる不自然がようやく消化される。ふたつの、入り組むように隣接した都市国家間では、紛争回避のために住民は互いに景物を無視するように馴致されている。主人公男がどちらにも属さない立場に至ると、どちらの住民も彼を認知できなくなるのだ。オッサン版key『ONE』というべき、石ころ帽子の孤独がそこに現れる。彼を認知できなくなる相棒たちとの別離が感傷を煽るのである。