母は否定から入る人である。隣人に取引を持ちかけようとする夫に、ぼられるのが関の山と冷淡に応じる。息子ジュディが遅く帰宅するたびに不機嫌になる。狩に出ようとする夫ペニーとジュディを難じる。曰く「男ってのは何かっていうとつるんでほっつき歩きたがる」
家庭の空気は母オリーの機嫌に支配されている。夕食に母の機嫌がいいと父と子は安堵する。
ハットーはペニーの元カノであり、宮崎駿のおかん的人物である。オリーの軽蔑するオスらしさをハットーは称揚する。狩で汗まみれになったジュディを抱きしめて、「いかした匂い」と評する。
「近頃男っぽいにおいにご無沙汰でさみしかった」
ハットーに懸想する北部から来た男がいる。ハットーは彼を嫌っている。男は第一次ブルランの戦いの生き残りであり、いまだ戦場のトラウマを引きずっている。ハットーは男をこう評する。
「情けない男は嫌いなの」
とうぜんオリーと折り合わない。
ペニーはなぜハットーではなく馬の合わないオリーを選んだのか。ペニーもハットーも互いに惹かれ合ったのだが、男が奥手で機会を逸したと設定されている。
オリーにしても最初から気難しい人ではなかった。腹を痛めた子どもたちは悉く病弱で夭折し、彼女は性格を歪め夫を種無しと見なすようになった。が、ハットーが正しく評価するように、ペニーは人格者で機能の高いオスである。有能なハンターであり、冒頭でオリーにぼやかれた取引の件はペニーの機智を示すイベントに終わる。
他方でオリーの不満にも根拠がある。一家は絶えず労働力不足に悩まされている。大家族の隣人には脅かされる。種の薄い男という外れを自分は引いてしまった。
オリーとハットー、どちらの男を見る目が正確なのか。事は女同士の競争になってくるのだが、結末は過酷である。過労がペニーの脚を襲い、彼を不具にしてしまう。希薄のタネが招いた労働力不足にペニーは報いを受けた。「こういうことになると思ったよ」とオリーは嘆じる。彼女の見る目は正しかったのである。