幼女の爆弾で滅び去った街を抜け、幼女の毒で汚染された丘を歩いた。幼女の毒に冒された体は、鎮痛剤の悩ましい暖かさに浸り、足取りは浮遊するような軽やかさだ。
昨夜の雨に拭われた空は高く、慈愛の色を湛えながら、練馬の大根畑の鳶色をした土塊を照らした。畦道を歩く私は、木陰に小さな墓標を認めると、その前に佇んだ。まるでメイドカフェで酩酊したような、午睡のような緩やかさに身を委ねながら、恋する人の影を待ち受けた。空の彼方より風が吹き、野を駆け、丘を越えて、樫の葉を微かに揺らした。
「――貴方、み○き先輩のこと、どう思ってるの?」
驕慢さと不思議な気韻を帯びた女の声に、私は何も答えることはない。
「雪さんのことは? 二見さんは?」
私の愛に排他性はない。私がみ○き先輩に求婚しながら、二見さんの凝視に頬を赤らめても、何の差し障りがあるのか。二次元の彼女たちは何万の男どもと寝ているのだ。
女の賢し気な唇が少し笑った気がした。
「だからって、貴方が浮気して良いことにならないわ。同じことじゃない」
私は練馬大根の暗く湿った土に打ち伏した。
「なあ先輩、俺の親父は、どうして自分の血を残そうなんて考えたんだろうな?」
今日に至る私の貧窮と孤独は、わが無能と人望のなさの賜物であった。老人性の鬱病に罹患し自決した父、生涯ただ一人の友とも出会えなかったこの呪わしき男は、何だってその陰翳なる内向の血を世に伝えようとしたのか。おそらく突然変異に期するものがあったのだろう。母の血が混ざれば何とかなるじゃん、とでも軽く考えたのであろう。というか、どうやってあの男は母を口説いたのか。そして、わたしはこの女にどうすればよかったのか。
「俺は愛されたかったのだと思う。でもあいつら、俺のことを微笑む無能としか見て呉れなかった」
女は溜息を漏らした。
「君が卑屈である限り、愛は屈辱にしかならないのよ」
丘陵の向こうから、練馬区役所の朽ち果てた尖塔が斜光に照らされ、白っぽい散光の輝きを放ち始めた。放心して見上げる空は白い雲を浮かべ、やがて地平線まで続く大根畑と溶け合い調和し、静かな波の打ち寄せる人なき浜辺へ至るだろう。み○き先輩と雪さんと二見さん、そして宮崎あ○いや長澤ま○みを生んだ、物言わぬ穏やかな海だ。
十五年前、女を滅ぼした爆弾に、私はようやく殺されようとしていた。(つづく)