形式主義でストレスに対抗する 『加奈』

『加奈』の日記には「リンゴの木を植える」的な文芸の説得工作と課題が含まれている。言葉遊びによってモラルハザードは防げるだろうか、という問題だ。主人公男が亡くなった妹の日記を開き「明日のわたしが、今日のわたしより、すぐれたわたしでありますように」という記載を認める。これに男が感化されてシスコンをやめるのはよい。しかし加奈自身にこの手の言葉遊びは効果を及ぼせたのか。学習意欲をあおっても余命は3ヶ月なのだ。規則とか習慣という惰性を以て、事態に対抗していると考えれば、日記の内容は問題ではなく、日記を書くこと自体が目的だったことになろう。もちろん言葉遊びだから限界はあるだろうが。



『君を忘れない』のキムタクが、これから死ににゆくのに歯磨きをしてしまう。キムタクはこの不条理を笑うが、心の疾患があっては業務に支障が出て死ににゆけないので、歯磨きは歯磨きで効用があったのかもしれない。こじれるひまがあったら手を動かせとか、技術は童貞を差別しないというのも、形式主義でストレスに対抗しているととれる。