2011-02-25から1日間の記事一覧

善意が悪意を誤解する 『アウトレイジ』

謳い文句の割には『アウトレイジ』がピカレスク(?)にならない。前に言及したように、虐げられた文弱が体育会系を撃退するギーク映画に見えてしまって、後味が爽快だった。 もともとキャラの好意的な印象を押さえたがる語り手には、國村隼の大勝利エンドは…

性愛を割り切る『ブロークバック・マウンテン』と『イヴの時間』

『ミルク』のガス・ヴァン・サントにとってホモセクシャリティは然るべき現象である。しかし『ブロークバック・マウンテン』のアン・リーには然るべくあっては困る。それが然るべくあっては、興味本位というエンタメに至らないからだ。『ラスト、コーション…

違いのわからぬ姉萌え ホ・ジノ

ホ・ジノの受け-姉属性は微妙だ。容姿と年齢の解離に亢奮を催すタイプらしい。 イ・ヨンエが檀れいとちょうど同い年で、ともに危険なほど年齢不詳だ。『春の日は過ぎゆく』がこれまた凶悪で、受け夫には毒だと思ったし、事実すさまじい結末を迎えた。『JSA』…

未練を実感する ――『セカチュー』を考える

セカチューの序盤には幽霊譚の印象が濃い。故人を回想するのだから死臭は免れないし、そもそも二人の馴れ初めが詳細さを欠いていて現実感がない。なぜこんなにマブい女が、俺の背中に胸部を押しつけてくるのか、まるでわからない。ところが、後半に入ると長…

青き空想は淫猥なるメタボ腹を越えて 『SPACE BATTLESHIP ヤマト』

礼子のミー(巨大茶トラ)に突っ込みを入れるキムタクがくどくて、「ねこ?ねこ!」と二度も言う。あえて何気なく流す方が、異文化の香り漂うというか、映画の自律性が高まったのではないかと余計なことを考える。どうしても我慢できないなら、少しギョッと…

AD大戦略の生産概念

Kampfgruppe×1を200〜300機が支援するようなAD大戦略はAllies的だ。およそ釜山橋頭堡の2倍くらいの密度と言えるだろうか。もちろん、どれだけ爆装させるかにも因るし、補給金欠問題という留保はあるが。 あの生産という不条理な概念を後方からの補充と解せば…

記号を克服する男たち 小日向文世 & 本田博太郎

『おとうと』の配役は一見したところ様式美の世界である。ホスピスの経営者に小日向というのが如何にもで、「また死神扱いかよ」なネタとして笑っていられる。ところが鶴瓶の臨終に至ると、山田洋次のリアリズムによって彼の死神振りが斜め上になり、微笑を…

アクション俳優・西村晃 『華麗なる一族』

佐分利と大同銀行の破綻を鴨川で企んだとき、西村晃は大文字を見上げ「ホホッ」と笑う。これがホともフともつかない鼻濁音なのである。佐分利が去ると、芸妓の耳掃除に恍惚となる晃。彼はぬるいトランスをはずみに裾へ手をやりセクハラを試みる。鼻濁音がそ…

或るブロンソン大陸 『善き人のためのソナタ』

『善き人のためのソナタ』の世界観は、ブロンソン大陸を意図的な鍛錬によっては到達できない場所としている。道場に通うといった互酬性の期待はスケベゴコロとして退けられる。オッサンはこのみじめな集配作業がブロンソン大陸への航海だとは思いもしない。…

松方弘樹のウロボロス 『野性の証明』

高倉健を空襲する松方弘樹のテンパり具合を教えてくれるのは、銃の反動に耐える彼の大げさな挙措である。そして高倉が死角に入ると、彼は「撃てるかな? 撃てない?」と逡巡する。挙措が固いから、遠景ショットでもその困惑が見て取れる。千葉真一がジャッキ…

失意のボケ足の向こうに 『ハッピーフライト』

『(500)日のサマー』に比べると、『ハッピーフライト』の智子の恋愛は穏健に報われている。サマーのラストには、トムの価値観が試されるだけあって、オータムの返答如何に切実さがある。 智子のぐぬぬ顔がよかった。待ち合わせに出向いたら男が不在で、失意…

魔法の伝声管 『ラピュタ』

パズーを連れて行くとき、わざわざ「娘が言うこと聞くかも」とドーラに言わせたり、その後ドーラの頭にレンガをぶつけてパズーに借りを作らせたりと、『カリオストロ』に比べると『ラピュタ』はシーンの接続に気をやりたがる。要塞で人死にが出ないのは「人…

ナルゴコロ 炎上する照葉樹林 ―― ドーラの夫と『豚』から『もののけ』へ

設定の上でしか存在しないドーラの亡き夫は実に美味しいポジションに据えられていて、『ラピュタ』における髭メガネの分身と言ってよいくらいだ。ドーラというあれほど素晴らしい女をたらし込んだあげく、さらわれたのである。いったいどんな天使だったのか…

形式主義でストレスに対抗する 『加奈』

『加奈』の日記には「リンゴの木を植える」的な文芸の説得工作と課題が含まれている。言葉遊びによってモラルハザードは防げるだろうか、という問題だ。主人公男が亡くなった妹の日記を開き「明日のわたしが、今日のわたしより、すぐれたわたしでありますよ…

愛をワナビの担保にする

『ハルヒ』と『耳をすませば』は恋愛を自己実現の担保にしている。たとえワナビの充足に失敗しても愛がある。ハルヒの心理のなかではワナビの充足が失敗していて、恋愛に逃げるしかない。 『狂い咲きサンダーロード』は真性童貞映画だからワナビの担保として…

『断作戦』

文芸寄りの『断作戦』に『パンツァータクティク』のような戦場の解像度を求めるのは筋違いであるし、『ペリリュー・沖縄戦記』のような生活観察も期待できない。戦況が既知外なため帰還兵の記憶が断片化している。また戦況図もついてないから、何が進行して…

『大病人』とは何だったのか

『大病人』は『マルタイ』の前哨戦だ。どちらも人を莫迦にした劇中劇から始まり、プロデューサー田中明夫の人を莫迦にした頭部は、悪徳弁護士・江守徹の人を莫迦にした頭部に引き継がれる。本多俊之の劇伴も相変わらずである。『ミンボーの女』が『大病人』…

『ジェイルバード』

応報の教育的感化が先にあって、救われるという情報が倒述的に公開されても問題はない。というより、感化へ興味を向ける点で、むしろ公開せねばならないのかもしれない。 救済の仕込みと発火の時間差が小さくて、まさかアレが仕掛け花火だった的な、因果の案…

天使を確定せよ 『ウォーク・ザ・ライン』

『ウォーク・ザ・ライン』の恋愛観は、天使はあらかじめ措定されているとする。ただ、あくまで措定されるにすぎないから、たとえば某女優を見て「俺の天使だ」と猛り狂ったとしても、その女が天使だとは限らない。天使とは、遡及的に振り返ってようやくあれ…

機能は伝播する 『大列車作戦』

機関士ではなく運転主任の映画である。普段のバート・ランカスターはデスクワークをしたり、信号所でテコ操作やったりする。これが非常時には機関士をするというのだから、「キャーシュニンサーン」と嬌声が飛ぶ。90分で機関車を降りたランカスターがランボー化して「キ…

十年目の『狂い咲きサンダーロード』

「シゲル……変わったな」という辰夫の台詞には、やはり誤誘導が含まれている。敵対者への言葉だから、シゲルはネガティブな意味合いで変わったのだと受け取りたくなってしまう。ところがこの後の台詞で、辰夫の意外な真意が明らかになる。「えらいカッコイイ…

(長めのtweetをここに移した)