2007-01-01から1年間の記事一覧

晴信のツンデレ術

亀治郎は自身のツンデレではなくて、相手のツンデレ性を利用して、女心を把握してしまう。 まず、ツンツンする柴本幸へ「おなごにはこれである」とラヴ・レターを送る。と、これが不味い歌で、「何とへたくそな歌ぢゃ」と笑われてしまう。つまり、柴本のツン…

「三人の秘書」, 『サラリーマンNEO』

社長の煩雑な喫茶習慣をめぐり奥田恵梨華らが煩悶するのである。彼女どもを不安にした物語の影は田口浩正だった、と明かされる結末が感涙である。スターシステムを利用した一種の復讐劇と解せるのであろう。 本作を遡ること数分前、田口はいとうあいこに一目…

恥ずかしい台詞禁止

灯里のいささか不自然な浪漫主義は、『ARIA』を知る者にとってみれば精密で確実な予期の悦びでもあって、つまり、かかる不自然な恥辱感は、それが発せられるや否や、藍華の悲鳴を引き出すことで贖われるはずなのだ。恥辱に苛まれる藍華の錯乱や突っ込みを被…

スピーク・ライク・ア・チャイルド

現在の書き手にとってイヤらしく思われるのは未来を観測する自意識であり、未来の受け手にとって感興を削ぐのは、自らが起草した以上、情報はほぼ明らかで、しかも受け取り期限が自明なので受け取る行為自体に意外性が少ないことである。歓楽は歳月を経て劣…

国木田独歩 『富岡先生』 [1902]

映写幕に大杉漣を認めるとたいへんな不穏を覚える。何をしでかすか解らない、という不安なのであるが、他方で、その心配は何らかの予期に担保されているようにも思う。少なくとも、何をするか解らぬという感想を生じせしめるのに十分な予期へ。 『ハゲタカ』…

『ハゲタカ』 第三回&第四回

殺された身内を感化のリソースとして活用することはありだろう。ただ、それを殺した当事者へ志向させるとなると、影響力は半減する恐れがある。殺した方は殺した方で、自分は人を殺してしまった、という負い目があり、それがまた影響力のリソースとして働い…

佐藤允の安心感

佐藤允を映写幕に認めると、これはもう何とかなるのではないか、と大船に乗れる。戦記物によくあるような、たちまちの内に員数外を調達してくるスーパー古参兵の安心感である。 ところが、実際に何とかなってるかというと、あんまりどうかなっていない。『青…

『忠臣蔵 瑤泉院の陰謀』

危うい話である。 吉良上野介がどこから見ても善人で、これが偽装なのか根なのかわからない。高嶋政伸のDQN演技が度を超え始めると、どうかイイ人であって呉れ、と願望混じりなスリラーになる。だから結末はくやしい。

ロバート・ネイサン 『それゆえに愛は戻る』 So Love Returns [1958]

竹内結子は記憶を欠いていて、情報量に著しい制約がある(『いま、会いにゆきます』)。彼女の視点を活用したとしても、情報流出の決壊は起こらない。語り手は、情報を秘匿しながらにして、語りのリソースをそれぞれの人格に分散し希薄化して、風景を分割する…

こころの時代、「司馬さん」との37年(ラジオ深夜便)

福田みどりの天然な性格と夫婦生活のモエ話を愛でるように組まれた構成であった。 司馬にプロポーズされた福田は動揺して「あたしは精神の機械がこわれてる!」と口走る。司馬は司馬で「僕がその機械を直してあげよう☆」と宣う。聞き手のディレクター鈴木健…

トーマス・マン 『ヴェニスに死す』 Der Tod in Venedig [1912]

人格が物語の常識圏から逸脱すると、もはや語り手は彼の心的な詳細を語り得ず、内語の開示は困難になる。たとえ、無理に開示したとしても、情報の信憑性は疑われかねない。しかし、事が恋愛のパワーゲームになると、内語は開示されることで、人格に著しい劣…

フィリップ・K・ディック 『暗闇のスキャナー』 A Scanner Darkly [1977]

人格の継続性が完全に絶たれてしまえば、当人は継続性の欠損を認識することができない。したがって、この場合、継続性の途絶から語られる情緒は、当人以外の、継続性を保ちうる外部の視座から語らねばならぬ*1。他方で、あくまで記憶を損なう当事者の視角を…

花沢健吾 『ルサンチマン (4) 』 [2005]

男の中に機能的な身体が発見されて、love at once が発現してしまう過程は、ごく基本的な作劇の作法に留まるものであり、では、かかる機能的な描画とは如何に、という先々回の議論*1につながるものだ。われわれには、何か機能的なる性質に好意を抱いてしまう…

タニス・リー 『銀色の恋人』 Silver Metal Lover [1981]

ふたりの機能性を競合させて、比較的に劣った機能を貶めるとする。これが、歓楽劇の標準的なテンプレであることは理解されるのだが、実際にかかる語りを運用するとなると、何を以て彼を機能的と描き得たのか、知らねばならぬし、反対に、どんな行動を以て語…