2021-01-01から1年間の記事一覧

小説『美わしのアムール』(後篇)

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小説『美わしのアムール』(前篇)

『罪の声』(2020)

星野源の印象がよくない。彼は世代的にロスジェネだが、父親のテーラーを相続して就職難とは無縁である。市川実日子との間には一女がある。市川は相変わらず地味カワイイから益々腹立たしい。絵に描いたようなこの幸福な男がいくら我が身を嘆じたところで反…

地上を概略化する誘導 「父兄運動会の巻」『じゃりン子チエ』

父兄運動会でヨシ江がリレーのアンカーをやることになった。ヨシ江は元陸上で足が速い。テツよりも速い。しかしチエは母の運動能力を知らない。自分の運動能力はテツの遺伝だとチエは信じている。テツは妻の俊足を娘に知られるのを嫌がる。チエを遺伝的に独…

『星の子』(2020)

アンビリーバーが野蛮人に見えてくる相対化が話の趣旨だと思われる。が、殊に公教育の場では、生徒の信仰に対して公共の福祉に抵触しない限り相対的な立場を取るのは常識であって、社会的合意があるのではないか、とわたしは考える。この常識に反する岡田将…

死者に自分を奪われる

ミッドウェイ(2019)とID4リサージェンス(2016)に淀む湿っぽいセクシャリティは何事であろうか。オネエ顔のエド・スクラインがスペルマの飛沫のような曳光弾をかいくぐり飛龍の航空甲板の日の丸目がけて250kg爆弾を投じる。飛龍撃沈の引き換えに戦傷したスク…

『渚のシンドバッド』(1995)

田舎に隠遁した浜﨑あゆみを男どもが追う場面は、ギャルゲの懐かしい感じがした。各方面に影響は与えたのだと思う。この浜崎はおそらく『放浪息子』の千葉さおりの原像でもあるのだろう。今更ながらそういう学びがあった。 しかし悲痛な設定の割には慰藉の余…

後期フィヒテ

カントの宇宙観にあっては正義はひとつしかないとされる。人それぞれに正義があるとは考えられない。この正義の充足に人は自由を覚えるとカントはいうが、これがわからない。正義を行うのに際し選択の余地がないのなら、やることはひとつしかない。それは自…

はるき悦巳の映画術

『じゃりン子チエ』の2巻にチエがテツと映画館に足を運ぶ話数がある(「文部省選定映画の味方の巻」)。映画のタイトルは文部省選定『僕はまけない』。作中では映画の一場面が劇中劇として挿入される。 幼少のわたしは『チエ』の中でも殊にこの話をヘヴィロ…

キラキラする人

フォレスターの『スペイン要塞を撃滅せよ』(1952)はホーンブロワー物としては構造が変則的である。通例、ホーンブロワー物はホーンブロワーの内語を通して事態を追っていく。ところが『スペイン要塞』には彼の内語が出てこない。扱われるのはウィリアム・ブ…

『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(1976)

神保町の件までは古典落語の踏襲である。寅が無銭飲食の老人、宇野重吉を憐れんでとらやに泊める。礼をしたい宇野は満男の画用紙に毛筆で何かをしたため、神保町の大雅堂に持って行くよう寅に頼む。宇野が日本画の大家と知らない寅は嫌がる。宇野の描いた宝…

『さよならみどりちゃん』(2005)

この星野真里も困ったキャラクターである。ダメな人なのだが顔がいいから男が寄ってくる。この人を観察する意味はあるのか困惑してしまう。星野がダメな人と作者は気づいているのか例によって訝りたくなる。むろん意図はある。本作は性格の一貫性を損なわな…

語彙力増強計画、その後

極限の英単語からおおよそ5000後を抽出してAnkiにぶち込み、それを消化し終えたの丁度一年前である。一日100語ずつ覚え50日で5000語の消化に成功したわたしは、これなら一年に2ヶ月ほど語彙力増強月間を設けても悪くないとほくそ笑んだのだった。ただ、これ…

やくざと四股名とナルシシズム

やくざの組事務所には独特の時の淀みがある。閑散とした事務所では当番の組員が二三名、ぼーっとしている。基本無職の彼らは暇人でやることがない。 『ヤクザと憲法』(2016)の二代目清勇会の組事務所を眺めていると、初期北野、特に『ソナチネ』(1993)の偉さ…

「ゴルフ場殺人事件」『名探偵ポワロ』

ヘイスティングスが後の妻と出会う話である。ヘイスティングスが意中の人を口説き落とせたことで、オスの成熟という物語の課題はこのエピソードを以て一応は達成されたことになる。しかしその後味は複雑である。この話数は、アガサらしいといってよいと思う…

満街人都是聖人

カントは傾向性(好みや感情)に左右される行為を嫌うから、彼からすればむしろ好意で微笑まれる方が厄介じゃないか。好意がなければ行為が生じない点で、傾向による親切は当てにならない。義務感からなされる親切の方が信頼できる。好意があろうとなかろう…

メアリ・ロビネット・コワル 『宇宙【そら】へ』

これは一般小説であって、作者もそのつもりなのだろう。それを宇宙開発SFのつもりで手に取ってしまったのでまことに厳しいことになった。最初から一般小説として読めば、話の大半を占める夫婦漫才とガールズトークに違う印象を受けたのかもしれない。しかし…

プリドーはどうやってもぐらを知ったのか『裏切りのサーカス』

感情表出への接近を特権ととらえるべきではなく、それは、当事者性を託し合わせる空間分布の冒険談であるべきだ。その中で、オッサンは、オッサン自身の不行跡な心のはたらきの広がりを受け手とともに知ることだろう。 (シネスケのワイの感想) 映画のジム…

メルヴィルとウーさん

英雄本色のTBS放映版を毎晩見ていた時期があった。後になってLD版を見たところ字幕に違和感を覚えた。TBS版の吹き替えには意訳が相当入っていることに気づかされたのである。キットが捜査から外され部長に抗議する場面でソフト版の部長は「諦めろ」と諭す。…

ビング・ウェスト『ファルージャ 栄光なき死闘』

ビング・ウェストは海兵隊のイデオローグといっていいから、イラクの荒廃した街に近代をもたらそうと海兵隊がやってくるノリにはなる。ところが結末は逆である。これは近代が滅ぼされる話であり、近代を担うキャラクターを設定しその悲酸な末路を通じて近代…

『寝ても覚めても』(2018)

唐田えりかが東出に惹かれるのはよくわかる。サイコの東出もそうでない東出も性能高いオスである。東出(サイコ)はともかくとして東出(民間)は受け手の共感を惹くように造形されていて、それに成功している。わからないのは唐田である。東出たちは唐田の…

フレンチアフリカ - アドバンスド大戦略

欧州征服の後にフレンチアフリカに到達して完勝してしまうと、ナチス世界征服架空エンドになる。今回はこれを目指して百年戦争繰り広げ、架空戦記軍隊を育成してきたのである。 フレンチアフリカで完勝するには、シチリアからイギリス島へ直接渡洋して生産首…

『冬の華』と牛乳

周知の通り『冬の華』(1978)といえば牛乳である。筋だけを見ればコテコテのやくざ映画である本作には、ジャンルムービーにそぐわない生活感、景物の情報量がある。そのアンバランスを象徴する小道具が牛乳なのである。 『冬の華』にとっての牛乳とは何よりも…